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 ■マスキングについて

聴力検査時に左右の聴力に差がある場合、特にその差が大きいと、聞こえが悪い耳の検査時、良い耳で聞いてしまう場合があり、正確な聴力がはかれない事が多くあります。その場合、マスキング(遮蔽)として、悪い耳の検査時、良い耳に音を聞かせ、悪い耳の検査音が、良い耳に聞こえてしまうのを防ぐ事が正確な聴力をはかるために必要となります。

気導聴力検査の場合、1側の耳に聞かせた音は、外耳、鼓膜、中耳、内耳を経て反対側の耳に約50dB弱くなり伝わります。(これを両耳間移行減衰量と言います)例えば、(図1,2) 1側の耳が正常で、反対側の耳が全く聞こえない場合、悪い側の耳の検査音が、正常耳の聴力より50dB以上大きな音を聞かせた場合、悪い耳は全く聞こえないにもかかわらず、良い耳の方で聞いてしまい、良い耳の聴力の50dB大きな音で聞こえると反応してしまい、聞こえない耳はほぼ50〜60dBの聴力があるような結果となります。この現象を陰影聴取(シャドーヒヤリング)、交叉聴取(クロスヒヤリング)と言います。そのため、両側気導の差が40dBより大きい場合は、良聴耳にマスクする必要があります

図1、マスキングをしない場合


図1、マスキングをした場合


骨導聴力検査の場合、片側に聞かせた音は、ほとんど減衰することなく反対側の耳に伝わります。即ち両耳間移行減衰量は0dBです。

純音聴力検査の場合は、マスキングノイズは(図3)バンドノイズ(狭帯域雑音)を用います。ホワイトノイズは1kHz以下で音が小さくなり、適しません。

図3、バンドノイズ


気導測定時のマスキングの手順

まずマスキングなしで両耳の気導を測ると(図4)のようになります。左耳の聴力は全ての周波数で35dBHL以内です。35dBは50dB(両耳間移行減衰量)より小さい値ですので、たとえ右の骨導が0dBHLであっても、左の35dBの音は50dB両耳間移行減衰量だけ弱まって右にー15dBHLのレベルで伝わるので右では聞こえません、つまり陰影聴取は起こらず、正確な聴力といえます。
右は1,2,4kHzではそれぞれ、50、60、55dBHLで50dB両耳間移行減衰量より大きいので、一応マスキング候補です。これ以外の右の気導は全て正しい。

図4、症例のオージオグラム


次に右耳に気導受話器、左耳後部に骨導受話器を当て骨導をマスキングなしで測ります。これは左右いずれかの骨導か、この段階では分かりませんが、良い方の耳の骨導でBCuと言います。その結果が(図5)のごとくです。
右の1,2,4kHzについて調べると、その差が50dB両耳間移行減衰量より大きいのは2kHzとなります。マスキングが必要の可能性があります。
* この場合、右の2kHzと骨導との差は両耳間移行減衰量を越えません。そのため正しい値です。

図5、良聴耳の骨導



マスキングの強さ
両耳間移行減衰量+BCuを用います。右2kHzではBCuは10dBですから、50+10=60dBです。左耳をマスクして、右気導を測り60〜85dBのどこかで応答があれば正しい値です。

(図6)のごとく、左の受話器から出た60dBのバンドノイズは、中耳の伝音損失のために20dB弱められ40dBの強さで左内耳に達するので、左内耳は40dBまでマスクされます。したがい、右の気導の正しい値は60〜85dBの場合には、両耳間移行減衰量50dB弱まり10〜35dBで左耳に達しますが、左内耳は40dBまでマスクされているので左では聞こえません。したがって応答は右耳で聞こえたことになります。

図6、左耳バンドノイズの減衰

* もし90dBで応答される場合、90−50(両耳間移行減衰量)=40dBで検査音が左に伝わるので、陰影聴取の可能性があるのでバンドノイズを15〜20dB強くして再度検査します。


骨導測定時マスキングの手順
骨導測定では、原則的に全ての周波数でマスキングが必要です。
先ほどの、図のオージオグラムを例に取ると、右気導は60dBと確定しているとします。そうすると右の骨導はBCu(10dB)と60dBの範囲内にあります。


左耳を60dBでマスクしまがら右の骨導を測り、患者の応答が10〜35dBにあれば、それは右骨導の正確な値です。
骨導の両耳間移行減衰量は0dBなので右の骨導の10〜35dBは、そのままの強さで左内耳に伝わりますが、左内耳は上記のように、40dBまでマスクされていますので左耳で陰影聴取されません。(図7)

図7、骨導左耳バンドノイズの減衰

* もし応答が40dBであった場合、正常聴力か陰影聴取かを決める必要があります。右気導は60dBHLですから右骨導の正常値は40〜60dBのどこかにあるはずです。


それで左内耳を60までマスクするためバンドノイズを20dB強め80dBにします。右骨導が40〜60dBのどこにあっても左で陰影聴取されることなく正常聴力が得られます。
* 左の80dBのバンドノイズは両耳間移行減衰量50dBだけ弱まって右内耳に30dBのレベルで達しますが、右骨導値は40dB以内ですからオーバーマスキングは起こりません。


マスキングがいらない場合
(図8)のごとく、両側性の軽度難聴で左右どの周波数でも気導―BCu(どちらか良い方の骨導)が50dB以内です。このような場合、先に述べたように、気導閾値はマスキングなしでもすべて正しい値です。またこの例のように、マスキングなしで測ったすべての気導閾値自体、50dBHL以下の場合、BCuを測らなくても気導閾値は正しい値と判定できます。

図8、症例2のオージオグラム

次の(図9)は、よく見かける老人性難聴ですが、マスキングなしで求めた左右の気導値がほとんど等しく(±5dB)、また、それらとBCuとの差が10dB以内の場合は気導、骨導ともにそのまま正しい値と判定できます。

図9、症例2の感音性難聴


語音検査のマスキング

図10、語音検査にバンドノイズは適さない

(図10)のように、音声のエネルギー分布は母音、子音を含めた広い周波数範囲にわたっています。したがって語音の場合は広い周波数領域を同時にマスクするノイズが必要です。(図10)はオージオメーターの1kHzバンドノイズ50dBがマスクする領域です。一見して語音のマスキングにバンドノイズを用いる事が間違いであると分かります。ホワイトノイズ、スピーチノイズ、ウエイトノイズなどが用いられます。ただし(図11)のごとく、それぞれのノイズ値50(マスキングダイヤル値)の場合のマスクする領域を見れば分かるように、純音に対するバンドノイズの場合に比べ、マスキングの効率は劣り、
ホワイトノイズはダイヤル値―30dB
スピーチノイズはダイヤル値―15dB
ウエイトノイズはダイヤル値―5〜10dB
なので、目標とするマスキング効果を得るには、この差だけ強いノイズが必要です。マスキング達成時のノイズの主観的なやかましさは、
@ウエイトノイズ、Aホワイトノイズ、Bスピーチノイズの順で、スピーチノイズが患者さんの精神的負担が最も少ない利点があります。

図11、語音検査にあうマスキング


語音検査時のマスキングの手順
 純音検査では、個々の周波数についてバンドノイズを用い、まず、両耳間移行減衰量+BCuの強さで良聴耳側をマスクし、応答により陰影聴取の可能性がある場合は、両耳間移行減衰量+BCu+15〜20dBで再度マスキングをして本来の聴力を求めました。
語音検査では当然周波数別でなく、1つの語音レベルを帯域の広い、ホワイトノイズを用いて、各マスキング効率に応じた補正値(+30dB:ダイヤル値)を加えた強さを選ぶと言う点を除くと、純音のマスキングと同じ考え方で実施できます。ただし、純音のように、応答を見て、再度ノイズを変更して検査はできません。
@ 非検耳にAB−gapのない場合
(図12)のように、右の語音明瞭度を95dBで測ろうとすると、両耳間移行減衰量50dBだけ減衰して左の内耳に45dBのレベルで語音が達し、左耳でも聞こえるので、マスキングをしないと右の正しい明瞭度が得られません。
この45dBのレベルの語音をマスクするには、ホワイトノイズ=45+30=75dBを用いればよいわけです。
 この例ではマスクされる左耳は感音性難聴でAB-gap=0dBですから、左の受話器から出たノイズは減衰しないで、そのままのレベルで左内耳に達します。

図12、語音感音性難聴


A 非検耳にAB-gapのある場合
先ほどの図と同じですが、(図13)左は混合性難聴で20dBのAB-gapがあります。このため前回の場合より20dB強いノイズが必要です。ホワイトノイズ=45+30+20=95dBをもちる必要があります。


図13、語音伝音性難聴

服部浩先生(神戸大学名誉教授)の書かれた、
@「臨床聴力検査―その基礎と実際―」文光堂の本にもマスキングの説明が多く、 
A「基本的聴覚検査マニュアル」金芳堂にも多くのページがマスキングにさいてあります。
B今回参考にさせていただいた「実用的マスキングの手引き」中山書店は、今までになく分かりやすく、ABCマスキング法、プラトー法は理解するには大変難解で途中で投げ出してしまったり、理解したようで、実際の使用時にはなかなか応用していくのに大変でした。

今回の「実用的マスキングの手引き」は分かりやすいので、参考に取り上げさせていただきました。
尚、本サイトに記載した内容は実際の本よりかなり簡単に書き、音場検査におけるマスキング(補聴器装用効果に大切)は、省いていますので、しっかりお知りになりたい方はご購入ください)。

   


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