「おや、こんな時間にめずらしいですな。・・・私の方こそ珍しい、ですかい? ええ、ちょっと懐かしい便りがありましてね・・・こんな時間から飲んでるってわけです」 「え? にやけてる? 私が? 冗談はよしてくださいよ。私みたいなオヤジをからかったってなにも出やしませんぜ・・・」 「でも・・・。嬉しいような、嬉しくないような微妙なところですね。私もこの涙もろくなりましてね」 「いいでしょう。今日は私がおごりますぜ。そのかわり旦那にはとっくり聞いていただきましょうかね」 「私の子ども時代を・・・」 「・・・そりゃそうですよ。私だっていきなりこんなになってるわけじゃないんですぜ。私にだって美少年の時代が・・・。そんなに睨まないでくださいよ、軽い冗談じゃありませんか」 「で、旦那はなにを飲まれるんで? え? ボルドーの200年もの? やめてください。私の今日の稼ぎが消えてしまいます」 「・・・・・・。おや、この店には置いてないそうで。残念でしたね、旦那」 「じゃ、私と同じで・・・」 「もちろん、バーボンですよ・・・私はこれしかやりません」 「さて・・・どこから始めたものか」 「私は昔、南米の方にいましてね。なぜか? それはわかりませんね。気付いたらゲリラってヤツになっていましたよ」 「カラスの子はカラス・・・ってね。親と言っても本当のものじゃなかったのは確実」 「そういうときでしたね。あいつに出会ったのは」 「あいつってのは妹なんで。・・・もちろん本当の妹じゃありませんぜ。単に年下の女ってだけです。年上の女なら姉、年下の男なら弟、年下のオカマなら・・・なんて呼ぶんです?」 「内戦の方はその後すぐに終わりましてね。こちらの負けですよ。私らは命からがらアメリカに逃げましたよ」 「しかし、私にはなんで負けたのかわからなかった。なにしろ私らのチームは勝ってたんでね」 「私らは勝ってるのに、全体では負けた・・・。子ども心に納得がいきませんでね、だから私はこんな稼業をやってるんで」 「私の知らないところで運命を決められるのはもうたくさんってことで。私が情報を求めるのは、私が運命を決めたいからなんです。・・・おや旦那、グラスが空ですぜ」 「・・・こちらに同じものを一杯」 「・・・どこまで話しましたか。ああ。だから私は情報を集めるんです。質の高い情報をね。もちろん、旦那が必要なときにはお分けしますよ。なんといっても旦那はおとくいさまですから」 「また話がずれましたな。・・・。アメリカでの暮らしは楽しかったもんです。養い親や、その、妹とは別々に暮らしてたんですがね」 「それでも、楽しかった。本当に・・・。私にとっては」 「もし私が安全で安定した暮らしを望んでいたなら、あれはまさに理想通りでしたな」 「ですがね。やっぱり私はそう言う暮らしは性に合わなかった。・・・だからいまはこんなことをしているわけで」 「そうはいっても、あの人に日本につれてこられなければ、今とはまた違ったことになっていたと思いますがね」 「あの人ですか? もちろん、旦那のところの所長さんですよ。あの人に日本につれてこられたようなもんです」 「・・・・・・。何か話をはぐらかしているだろうって? へっへへ・・・。かないませんな旦那には」 「ではお話ししましょうか。もっとも他人が聞いておもしろい話でもないかもしれませんぜ。それでもかまいませんので?」 「先ほど話に少し出てきましたがね。私には妹がいるんですよ。・・・妹といっても血がつながってるわけじゃない」 「私がね、ガキの時分に拾ったんですよ。そいつもまだ小さいのに一人っきりでね。ま、やむをえずってやつです」 「それが、一緒にアメリカに渡ったんですがね。まぁ、仲のいい兄弟でしたよ。あいつもこんな私のことを慕ってくれましてね」 「へっへ・・・。そんなわけで、分かれるときは結構しんみりしましてね」 「なんで分かれたか・・・ですか?」 「私はこんな稼業ですが、妹には堅気の暮らしを送って欲しかったんですよ。それで・・・ですね」 「っむ。今日はやけに酒の進みが早い・・・もうグラスが空だ。旦那はどうです? ・・・じゃ、私は次に行かせてもらいますぜ」 「・・・。ま、それが最後でした。もう私とあいつには接点はまるでない。あいつのことは全く聞かないし、もちろん私から連絡することもないんです」 「ところがね。さっき私のネットワークに入ってきた情報にどうもあいつのことらしいモノがありまして」 「え? 私のところの情報じゃまっとうなモノじゃないだろう? そりゃそうです。近所の犬が六つ子を産んだ・・・なんて平和な情報は私の所には来ませんがね」 「・・・・・・。そうなんで。あいつの情報がいいものなのかどうか私にもちょっと判断がつきませんでね」 「情報屋なんです。いや、私の事じゃあありませんぜ。あいつ、どうも情報屋を始めたらしいんで」 「名前は変えていますがね。私にはわかるんですよ」 「情報ってのは、ふしぎなもんでしてね。情報そのものは単なる事実をさしていると思ってる人は多いんですがね」 「情報ってのは人の手を渡るたびにいろんな色が付いてきますんで。」 「そしてそのうち、手垢にまみれてどうしようもなくなっていくんですがね」 「もちろん私のところは大丈夫ですよ。私は純度の高い情報しか扱いませんので」 「また話がずれましたな。・・・そう。あいつの事はわかるんですよ。たとえ名前が違っていてもね」 「ただね、旦那。これがいいことなのかどうか私にはわからないんで」 「・・・どう思います?」 「・・・・・・。連絡を取るか・・・ですか? それは・・・取りませんよ。取るつもりもありませんぜ」 「私とはすでに縁は切れてるんです。いまさら・・・ってもんでしょう」 「・・・どうです?」 「・・・なるほど。旦那はよい知らせだというんですね? わかりました。旦那がそう言うんなら・・・」 「それじゃあ、今夜は飲み明かしましょう。ええ。もちろん私がおごりますぜ」 ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・ 「へっへっへ・・・。もしかしたら、旦那もお会いすることがあるかもしれませんぜ・・・ひっく。矛盾しているようですがね・・・うっく」 「へへ・・・。勘ってやつです・・・。なんとなくそう思っただけですがね・・・」 「・・・・・・」 ・・・・・・ (終)
あとがきなんというか・・・久しぶりのSS書きでした。多分にリハビリ的なものを含んでいたり・・・。グレンの一人語りというのはどうなんでしょうねぇ・・・結構難しかったですが。(笑)というか、それ以前に、グレンってこんな口調だったっけ?? ・・・そもそもグレンに一人で喋らそう・・・ってのが無理だったようです(汗)。 一応、グレンとその妹・・・ということで、私のオリジナル設定ですが、その関係を説明するとしたら・・・こんな感じになるでしょうか。饒舌なグレン・・・ってのもおもしろいかもしれません。 なお、この「紅蓮(表)」と対応する形で「紅蓮(裏)」というのを私のページで公開していますので、併せてご覧ください。(^^; |