ADAM -The affair after- 【まりな編】

【プリーチャー】「……君はなかなか美しい身体をしている…その身体が血に染まっていく様子は、さぞ綺麗なことだろうな…」
プリーチャーはククリの刃を弄びながら、笑みを浮かべる…
いかれてるわ…異常よ。何とかして、あいつより銃を抜かなきゃ…
【プリーチャー】「さあ、まず最初はどこからいこうか?…お望みの場所を言いなさい、その通りにしてあげよう。」
くっ…隙がない…!駄目だわ…迂闊に動けない。…小次郎……まだなの?早く来て――
    ・
    ・
    ・
    ・
周囲に真っ白い清潔な空間が広がる。
ここは病室だ…どうやら私は助かったらしい。傍には誰かが居る。
【・・・】「まりなくん、僕だよ。危ない所だったようだね」
「…本部長?……ユカ…そうよ、ユカちゃんはどうしたの!?」
【本部長】「まりなくん…落ち着いてよ。ユカちゃんは無事だよ。ほら…」
えっ…?本部長は私のすぐ近くを見た…その視線を追うと、そこにはユカちゃんが泣きそうな顔をして椅子に座っていた。ユカちゃんは私が目覚めたと判ると…
【藤井ユカ】「まりなさん!よかった、目覚めたんだね!寂しかったんだから!」
目に涙を浮かべて、笑顔で抱きついて来た。
「ユカちゃん…御免ね、心配させて…」
【藤井ユカ】「ううん…そんなことない!私は…まりなさんの傍に居たかったから…」
「……ありがとう。…でも、落ち着いて…」
【藤井ユカ】「うん…まりなさん」
「何?ユカちゃん?」
【藤井ユカ】「甲野さんが、話があるって…それで、私…まりなさんの家に帰るから」
「判ったわ、気をつけて帰るのよ」
【藤井ユカ】「うん…わかった。じゃあ…」
ユカちゃんは背を向けてドアの所に行って、出て行くときに名残惜しそうに私を見た。ユカちゃんの心配そうな顔を見て手を上げた。
――心配しないで、大丈夫よ。
私の意思表示が読み取れたのか、ユカちゃんはこくりとうなずいた。
ガチャッ…ばたん


【本部長】「いや〜感動の場面だったねぇ」
ユカちゃんと私のやり取りの一部始終を見ていた本部長がからかうような口調で言った。
「すっかりオヤジね…」
私が言うと、本部長は溜息をついた。
【本部長】「ま〜りなくん…頼むからそれだけは言わないでよ…年を感じるからさぁ」
「あら…私は事実を、述べただけよ?」
【本部長】「と、まあ…これは置いといて。本題に入ろうか…」
やっと本題に入れるのね…本部長ったら茶々入れるのが上手いんだから…
「そうね…早速確認だけど…私がここに入院してからどれくらい経つの?」
【本部長】「まりなくんが入院してから、一週間位は経っているね。……その間は大変だったよ…」
本部長は少しきつい顔をしている…こんな表情をするのは、よほどの事態が無い限りしない。本部長はそういう人なのだ。
「…なにかあったのね?私が入院してる間に…」
【本部長】「さて…何から話したらいいかな?」
私は何から話そうかと思案している本部長に言った。
「入院してからの順番でいいわ」
うん?と本部長はうなずいて、これまでの出来事を切り出した。

【本部長】「……プリーチャーが逃走したよ」
「えっ…ええっ!?プリーチャーが逃走?なんでよ…」
【本部長】「いや…厳密には、我々の目を欺いて逃走したんだよ。匿名の通報者がいてね…それで、まりなくんは助かったんだよ」
――天城小次郎ね。何とか間に合ったみたいね…それにしても匿名の通報なんて、なかなか味のある事…
【本部長】「びっくりしたよ。傍にプリーチャーも倒れてたからね…問題なのは、その時すでにプリーチャーは死亡していると言う診断結果だよ。」
「その場で、死亡と結果が出たわけ?」
【本部長】「…救命隊員の話では、すでに心臓停止していたそうだ。しかし――死体を持ち去る動機が繋がらない…仮に要注意人物だとしてもね」
「それで生きているとしたら、とんでもない奴ね…そんな奴がこの街を我が物顔で歩いてるなんて考えるだけでぞっとするわ…」
【本部長】「まさにそうだね。死んでいると思わせる事で得する人物は周囲には居ない…居るとしたら、プリーチャー本人だね。死亡と断定されたら、それまで。脱出のチャンスな訳だからね…」
「救命隊員の逃亡幇助の可能性は…あるわけ無いわね。そこまで手が届いてるなんて考えられないわ。」
【本部長】「無論、その可能性も考えた――が、むしろそんな回りくどい事するよりも…確実に情報が入り、尚且つ行動範囲に制限の無い立場にある人物の方が良いに決まってるね。」
「…まさか、その人物を割り出し出来たの!?」
【本部長】「いいや…その必要が無かった…すでに殺されてたよ。肝臓を抉られてね…」
「何ですって!?…その被害者は?」
【本部長】「僕も君も知っている意外な人物だよ…JCIAの平井だ」

!!!?

【本部長】「JCIAの平井は内通者…おそらくプリーチャーとトラブルでも有ったんだろう…それで殺されたんだ」
「…何てこと…じゃあ、ここであった事は全てプリーチャ―に筒抜けって事じゃない!?」
【本部長】「そうなるね。ただ、この件はJCIA全体の責任に当たる事だから、内調がJCIAの一部だとしてもこちらには責任は無い事になるよ」
……でも…本当にそれだけなのかしら…本部長には悪いけど…この事件はまだまだ裏がありそうな気がするわ…いずれにしても揣摩臆測に過ぎないわね…
【本部長】「それと…偶然か関係があるかどうかは判らないが、プリーチャーが逃走した当日に爆破事件があったよ。エリート社員の家族が全員爆死…爆破現場は道路上、それも車の中でね」
「爆破事件が…?でも、それじゃプリーチャーの手口と違いすぎない?」
【本部長】「そうだね…それがどうも腑に落ちないんだよ」
「でもそうだとすると、手口を変える理由があった訳よね?考えられるのは証拠隠滅…目的の隠蔽…」
【本部長】「うん。僕もそれを考えてたよ。しかし…一部特徴は合うね…いずれも一見して繋がりの無い無差別殺人に見えるって事だね」

でも…その裏はおそらく…エルディア情報部の集まり…
そういえば小次郎は安藤が殺されたと言っていた。しかし、小次郎が言うにはプリーチャーとは別件なのだと言っていたが…
「安藤という人は…」
【本部長】「それも調べたよ…安藤の邸に四人も死体があった…うち一人は別件らしいね。医師による死亡診断書があったが…実際はどうだか…」
よ…四人も…安藤が殺されていたのは知っていたけど、三人も殺されているなんて…
「なんて事件なの…最悪だわ」
【本部長】「気を落とすのは、まだ早いよ…まだあるんだから。医師から入院状況だよ」
あ――…なんか聞きたくない気分…
「で…私はどんな状態にあるわけ?」
【本部長】「右手の神経が切断されていたから、縫合しなおしたが…完全にくっつく可能性は20%、そうでなくても日常生活においては不自由という事も無いだろうとね。…ただ、当分の間はリハビリに専念してもらう事になる」
「ふふ…そう。これで元通りになっていなかったら…」
本部長もこればかりは慰め顔になっていた。
【本部長】「しょうがないよ…命があっただけでも良しとしないと」
「そうね…ありがとう、本部長」
【本部長】「まりなくんから、その言葉が聞けるとは思わなかったよ…さて、僕はまりなくんが復帰するまで内調で待っているからね」
本部長は私にそう言って、出て行こうとした時、忘れていた事を思い出す。
「本部長、待って!」
【本部長】「何だい?まりなくん」
「多分、国家公務員に氷室恭子さんが復職しに来るかもしれないから」
【本部長】「氷室って――数年前の旧教育監視機構元所属の?」
「ええ…そうよ。キャリアはともかく、有能な人材だと思うけど…」
【本部長】「まあ、なんとも言えないが…考えておくよ」
本部長はそう言って病室を出た。しばらくはここで安静にしてなきゃいけないみたいね……
    ・
    ・
    ・
    ・
【射撃場】
パンパン!ダン!ダンダンッ!!
周囲で銃声が反響する。ここは、警察機関所属の射撃場だ。
事件から数ヵ月…私はあの後リハビリに専念した…内調に復職する為だ。
その間の回復は順調に進み、医師も予想以上だったようである。
今日、退院したばかりだ。私は射撃の腕前を確かめたくて、ここ――射撃場に来ていた。今、銃が使い慣れているベレッタM1919じゃないから、確かなことは判らなかったけど――かなり射撃の精度は落ちていないようだ…ただ――神経切断の後遺症で、瞬間射撃が三発しか打てない事だ――緊急時には役に立たないというわけね。

ピルルルッ…ピルルルッ…
携帯だわ…誰からかしら?
「もしもし…法条ですが」
【受話器】「まりなくん、僕だよ」
この声――久しぶりに聞く本部長の声だ…
【受話器】「射撃場に居ると聞いたよ。退院してすぐだって?タフだねぇ…まりなくんは」
「タフなのはお互い様でしょ…」
【受話器】「それはいいとしてさ…どうだい?調子は」
「上々よ…でも実際に私の射撃を聞いてからにしてくれない?」
【受話器】「うん?」
本部長がそう言うと、私は携帯の感度を上げて傍に置いた。そしてリボルバーをターゲットに向けて構える。リボルバーで全弾連発で打つと射撃の良し悪しに判別がつき易いからだ。

…少し息を吸って、気分を落ち着けた。指を引き金に掛けて、力をこめる。
ガガガン!!ダンダンダン!!!
「どう…聞こえた?」
【受話器】「う〜ん…聞く限りでは瞬間射撃が三発、後は少し間延びした感じだったね…で、ターゲットポイントのプラスマイナスは?」
内調のターゲットポイントは評価が厳しい。中心から+10、+5、-5、-10に表記され、+10、+5のみに注目される。つまり…いつ、何時でも最低は+45は入れないと射撃の才能を認められず、銃携帯を許可されないのだ。ある意味で、警察の制度よりかなり厳しいのよね…
私はターゲットポイントを手前に寄せて、結果を報告した。
「殆ど+10の範囲に収まってるわ…+55よ。」
【受話器】「結構…合格だよ。瞬間射撃が三発しか打てなくとも、捜査官としては十分通用する。相手がまりなくんを超えるプロで無い限りね。…それにしても――まりなくんの悪運の強さには驚いたよ…そのほうが僕にとって嬉しいんだけどね」
本当に嬉しそうな声で言う本部長。
「まあね…さすがの私もここまで回復出来るとは思わなかったわ…で、電話掛けてきたんだから何か用件が有るんでしょ?」
【受話器】「ははは…まりなくんには、お見通しのようだね」
「何年間仕事で付き合ってたと思ってるの…で?本部長?」
【受話器】「うん?いや、そうだね…折角退院出来たんだから、久しぶりにこちらに来てくれないかと思ってね…」
「本部長?今日は仕事の日じゃないんですけど…」
【受話器】「まりなくん…そこを何とか頼むよぉ」
本部長は今、受話器の向こうでシイタケの断面図のような目をしているのだろう…
「わかったわよ…行きゃいいんでしょ…行けば」
【受話器】「じゃあ、待ってるからね」
プッ…ツーツー
本部長はそう言って、通話を切った。
ピッ
携帯のスイッチを切って、射撃場を出る。

【セントラル・オフィス街】
周囲はぽかぽかとした雰囲気を醸し出している。今は昼を少し過ぎた頃のようね。
ここはセントラル・アベニューの少し外れた所にある、セントラル・オフィス街という所ね。言葉通りに、ここら辺はオフィスが密集している…先程の警察機関もここにある。
でも何故か内調とかJCIAとかの非公式の捜査機関は、ここから離れてひっそりとしたところに有るのよね…オフィス街の中心に堂々とした警察機関があるおかげで、あまり注目されないのよね…その方が有り難いんだけど。
本部長が待っているわ…急ぎましょう。

【本部前】
ここは本部前よ…ここは、数ヶ月たった今でも変わらないわ…数年前も同じだったんだから当たり前ね…
それにしても…殺風景なところね。セントラル・オフィス街のように緑溢れる道並には出来ないのかしら…
ともかく、内調に行きましょう!

【内閣調査室】
ガチャッ
ノックもせずに入る。
「本部長!只今、法条まりな参上に参りました!」
【本部長】「おっ、来たねぇ…ご苦労さん。」
「……ご苦労さんって言われるよりも給料のほうを上げてほしいわ。」
そう言ったら、本部長はトホホという顔をする。
【本部長】「まりなくんさぁ…冗談は程々にしてほしいよ…僕もそう思ってるんだけど、僕がどうこう出来るわけじゃないんだからね」
「判ってて言ったのよ…私を呼び出した用件は?」
私がそう聞くと、本部長は腕時計をちらっと見て言った。
【本部長】「もうすぐ用件が来るよ。今日、新しく入る内調の捜査官だよ」
「捜査官?誰かを招き入れたの?」
コンコン…
ドアの向こうで軽いノックの音がする。
【本部長】「おっ…もう来たようだ。…どうぞっ」
【・・・】「失礼します…」
私が予想していたのとは違って、女性の声だった。しかも少し若い声…ちょうど桐野杏子みたいな?
色々思案していると、女性がドアを開けて入った。
【本部長】「ここ――内閣調査室で新しく入る人だね?」
本部長が女性に聞くと同時に私はその女性に視線を向けて顔を確認する。
…えっ?
その女性は私の知っている顔だった。
【・・・】「…はい。今日日付で内閣調査室捜査官として着任する、氷室恭子です。…着任の許可を。」
【本部長】「うん。氷室恭子捜査官を内閣調査室に着任を許可する」
【氷室恭子】「着任許可を有難う御座います、甲野本部長」
【本部長】「まあまあ、堅い話は抜きにして…どうしたんだい、まりなくん?固まって…」

「はっ!?本部長っ!」
だむっ!
私は本部長の机を叩くようにして詰め寄って、氷室さんに聞こえないようにヒソヒソ話す。
『どうして氷室恭子さんがここに勤める事になったんですかっ!?その辺を説明してよ!』
【本部長】『どうしても何も、まりなくんが言ったんじゃない。ほら、数ヶ月程前入院してから一週間位の最初の面会で…』
『思い出したわ…思い出したけど、なんで今になって入ってくるのよ?入院してる間に――なんて出来たはずだけど?』
【本部長】『その辺は僕にも判らないよ…本人から聞いてみてよ』
『でも、なんで?ここで働く事になる訳?』
【本部長】『ここには、情報関係に精通した捜査官が居ないしね、それに君の言う通りに有能な人材だと僕が判断したからだよ』
ふうっ…まあ、何となくは予想はしてたけど…退院してすぐお目に掛かるとは思わなかったわね…
「わかったわ…とりあえず、それで納得した事にするわ」
【本部長】「納得してくれなきゃ困るよ…まりなくん」
本部長に釘を刺される。
「判ってるわよ…」
【本部長】「そうそう、氷室君とまりなくんの内閣調査室捜査官としての任務は明日からだよ…心して準備をして置くように。」
ここだけは、キリッとした顔で言う本部長。何だか決まってるわ…
【氷室恭子】「はい、了解しました。甲野本部長」
「判りました、本部長」
いつもどおりに受け答えする私。
【本部長】「二人とも今日は帰っていいよ。…そうそう、まりなくん…限られた時間だ。ゆっくり羽を伸ばすといいよ」
「判ってるわ。じゃあ…明日ね」
私はそう言って、恭子さんと一緒に廊下へ出る。

……ここは本部、内閣調査室のあるフロアの廊下ね。無機質な空間が細長く通じて、何だか涼しく感じる雰囲気になっている。
【氷室恭子】「久しぶりね…法条さん」
「えっ…ええ。そうね…ここじゃ何だから、何処か店で…」
【氷室恭子】「ええ…いいわ。それで」
私達は落ち着いて話せる所へ行く為に本部を出ることにした。

【本部前】
本部前に出たわ…
私はふと思った事を氷室さんに聞いた。
「そういえば…氷室さんは内調に来るのは今日が初めてよね?」
【氷室恭子】「そうね…旧教育監視機構と内調とは直接の繋がりが殆ど無かったから、内調とはこれが初めてって事になるのかしら」
「今、旧教育監視機構は無くなっている訳よね?思い出すまで知らなかったんだけど…」
【氷室恭子】「旧教育監視機構はテストケースを経て既に実用化されてるわ。もっとも分裂して、それぞれの各官庁に非公式で存在してる事になってるけど。…主要機関は、外務省に対外諜報部、対外情報部、内務省に対内諜報部、対内情報部、他の省庁にもあるわね。分裂と一言でいっても、元々が旧教育監視機構だったから機能ごとに分かれて、各官庁の枠を超えた情報のパイプを持つ事で、裏では一つに纏まってるわ」
「へえ…凄いところになってたのね…」
【氷室恭子】「今となっては、私には関係無い事だけどね…」
氷室さんはやれやれと肩をすくめた。
【氷室恭子】「それより、座れるところに行きましょう?」
「え…ええ、忘れてたわ。行きましょう!」

【セントラル・アベニュー】
ここはセントラル・アベニュー…セントラル・オフィス街のすぐ近くにある、繁華街ね。
数年程前は、銃撃戦とか殺人とか爆弾騒ぎで騒がしかった街よ。中央にあるガラス張りの派手なビルが、かつてのプリンセスホテル…今は総合商業テナントになってるみたい。でも、周囲の人々はまだ旧プリンセスホテルって呼んでるけど…何故かしら?
ともかく、旧プリンセスホテルに行くわよ…

【旧プリンセスホテル】
ガー…
私達の背の倍はあるガラスの自動ドアがひらく。
基本的な内装は変わってないみたい…ロビーとその奥がすっかり商業施設になってしまっている…以前のホテルの時より客入りが良いみたいね。
私達は席を落ち着ける為にロビーにある『パラソルカフェ』に入った。
『パラソルカフェ』という店はビルの中にあるのにパラソルを差しているという変わった店だ。

ガタッ…ミシ…ミシッ

ギクッ。
…何よこの椅子…やけにギシギシ言うじゃない。体重が増えたかと思っちゃったわ…この店、精神衛生上よろしくないような気がするわね…当分は近づかない様にしよう…
「…まあ、いいわ。氷室さん、どうして今頃内調に?」
【氷室恭子】「どうしてって…数ヶ月程前に私が『あまぎ探偵事務所』を辞めた事は知っているわね?」
「ええ…その後は国家公務員に再び就くつもりだって言ってたけど…」
【氷室恭子】「就くつもりだったのよ。辞めて直ぐに就くことも出来たんだけど…それには数年間のブランクを埋めなきゃならなかったわ…」
「へぇ…その間はどうしてたの?」
【氷室恭子】「さすがに数年間も職を離れてるとね…感覚も鈍ってくるから。一度、教官の元で再教練しなおしたわ…」
「成る程ね…それで、数ヶ月は再教練修了を経ていたから、遅れていた訳ね?」
【氷室恭子】「ええ…そうよ。でも、国家公務員になってすぐに内調への転職の声が掛かるとは思わなかったわね…」
本部長ったら!手を回していたのね?でも…有難いわ。これでも有能な人材だもんね…他の所では勿体無さ過ぎるわ。
「でも…ビックリしたんでしょ?かの内閣官房所属の機関だから…」
【氷室恭子】「誰でもビックリするわよ…就いて直ぐに内調へなんて滅多に無いんだもの」
「それもそうね…」
そりゃそうか…私でさえもそんな経験無いもんね…
【氷室恭子】「…もう時間が無いわ。法条さん、話はこれで終わりに…明日内調で会いましょう」
「ええ…そうね。じゃあ明日内調で」
ガタッ…
私達は椅子を立ち上がり、『パラソルカフェ』を後にし、旧プリンセスホテルで別れた。

【セントラル・アベニュー】
ここはセントラル・アベニューよ。ここら辺はこの街一番の繁華街ね。
そういえば、ここの近くに弥生の事務所――桂木探偵事務所があるのよね…ちょっと顔出してみようかな…弥生驚くかな?
桂木探偵事務所に行くわ…

【桂木探偵事務所】
桂木探偵事務所のあるビルよ…立派なビルで安心感あるわ。あまぎ探偵事務所とは大違いだわ…むしろ同じとは思えないわね。
ここから見ていても面白くもなんともないわ…中に入りましょう。

「はろはろー」
【所員】「あ…依頼の方でしょうか?」
「いえ…弥生は居るかしら?」
【所員】「所長でしたら…奥に居ますよ」
「ありがとう」
ここは桂木探偵事務所だ。なんか前より活気を感じるけど…繁盛しているのかしら?
とりあえず、弥生に会いに行きましょう…

ノックせずに所長室に入る。
「はろはろー」
【弥生】「…まりなか!もう病院はいいのか?」
ついさっきまで机に向かっていた弥生が振り向く。手にはタバコを挟んでいる…ヘビースモーカーね。
「今日退院したばかりよ…その後内調とかにも顔出してきたけど。何かとここ最近繁盛してるみたいね?」
【弥生】「ああ、それか。最近使える所員が入ってきたからな…おかげで助かっているよ。まりな、もう怪我はいいのか?」
「大丈夫よ…順調に回復したから」
【弥生】「しかし怪我したときは、かなりの致命傷だったんだろう?捜査官としての立場も微妙だと聞いたが…まりなはよほど悪運に強いんだな。おまえには負ける」
「それ、誉めてんのかしら?同じ事を上司にも言われたんだけど…」
【弥生】「あはは!まりなは単純に見えるからな」
「悪かったわね!そうそう、折角退院できたことだし…今日はどう?」
コップで飲むようなしぐさをして弥生を誘う。
【弥生】「…そうだな。ここ数ヶ月間酒飲みに付き合ってないからな…今日はキリがいい所で仕事が上がったばかりなんだ。…いいだろう私も付き合うぞ」
「そうなの?それは良かったわ。じゃ、夜ね」
私は弥生の事務所を出ようとした所で、神妙な顔をした弥生に呼び止められる。
【弥生】「待ってくれ…前から聞きたかったんだが――いや、何でもない…出来る限り早く行くからな。」
「…?変な、弥生ね。今回は覚悟しなさいよ…ジャンジャン飲むんだから!」
【弥生】「まりなはタフだな…お手柔らかに頼むよ」
神妙な表情はすでに無く、からからした笑いに戻っている。
「待ってるからねーじゃあね!」
【弥生】「ああ…」
桂木探偵事務所を出たわ。澄んだ青空が見える…周囲にはガラス張りのビルが私を囲む。空には太陽が嫌と言うほど、さんさんと降り注いでいる。
さて、サン・マンションに戻りましょう…

【サン・マンション】
数ヶ月ぶりに見る私のマンションよ…403号室が今住んでいるところね。数ヶ月前の事件の縁あって、ユカちゃんが居候することになったわ。
それにしても数年前よりも黒く、くすんで見えるわね…
403号室に行きましょう…

【403号室】
あいかわらずの部屋…数ヶ月前に来てすぐ事件を担当して一週間も経たずに入院した訳だから当然ね…でも、ここ数ヶ月はユカちゃんが居候することで幾分かは生活感が感じられるわ…

ピルルルッ…ピルルルッ…
携帯ね…出なきゃ。
「はい…法条ですが…」
【受話器】「まりなくん…僕だよ」
「本部長?どうしたの?」
【受話器】「いや何、ちょっと言い忘れたことがあってね…明日の任務の内容を触りだけでも言っておこうかと思ってね…詳細はFAXで送るよ」
「明日の任務内容とは?」
【受話器】「情報調査だ。早速、氷室君と共同で捜査する事になるよ…大変だと思うが、彼女はここ――内調での仕事は初めてだ…そこで彼女のサポートとしてあたってくれ」
「そういうことですか…判りました」
【受話器】「後、ついでに欲張るなら、まりなくんにも情報関係に詳しかったらねぇ…」
「本部長!!私がパソコンアレルギーなの知ってるでしょ!!情報関係なんて考えるだけでも鳥肌立つわ…」
【受話器】「判ってるよぉ…そんなの。怒らなくたっていいじゃない…」
「とりあえず大体の概要は判ったわ…用件はそれだけ?」
【受話器】「うん?ああ…それだけ。じゃあ明日…そうそう詳細のFAXもよく読んどいてね」
「判ってるわよ…ったく。じゃ、切るわ」
ピッ…
携帯を切る…――と、そうね…一応、小次郎にも掛けてみる?

ピッ…パッ…ポッ
ピルルル…ピルルル…
【受話器】「はい、こちらあまぎ探偵事務所…」
「はろはろー」
【受話器】「ぎくっ…この声…この口調…このノリの良さ…俺の中で一番関りたくない奴だな…」
「…………」
何よ…随分と嫌われてるわね…
【受話器】「………法条まりなか?」
「大正解!…でも、ぎくっ…てのは何よ…ずいぶん嫌そうじゃない?」
…………少し間があく。ちょっと〜何考えてるのよ…
【受話器】「…そんな事言ったか?」
隠し通そうとしてるわね…そうはいくか!!
「言ってたわ。しかもご丁寧に『ぎくっ…この声…この口調…このノリの良さ…俺の中で一番関りたくない奴だな…』ってね」
小次郎の声を真似して言う。どうだ!ぐうの音も出まい…って私、何これ位でムキになってんのかしら…
【受話器】「………ご丁寧に説明ありがとう」
「どういたしまして。――で、何で嫌そうなのよ?」
【受話器】「いや…何となくな。おまえから何かあると決まって事件を持ち込んで、俺を巻き込むからな…」
ギクッ…す…鋭いわね。事あるごとに事件に巻き込ませて早期解決を謀ってたりして…って違う!
「……それは置いといて…」
【受話器】「…………」
ああっ!?何か不信の気配がヒシヒシと…
「それはともかくよ!氷室の事よ、氷室恭子。」
【受話器】「…氷室がどうしたんだ?」
よっしゃ!話題をそのまま別の方向へ…
「氷室さんだけど、再び国家公務員の職に就く事になったわ」
【受話器】「そうか――恭子は元気にやってるのか?」
「やってるわ。私が国家公務員を薦めたせいもあるんだけどね。ともかく、一時期は大変だったわよ…」
【受話器】「そうか…いや、一安心したよ。で、国家公務員のどこに就く事になったんだ?」
「ここ」
【受話器】「………?」
「内調よ。私が勤めているところの」
私がそういったら、受話器の向こうで素っ頓狂な声をあげる小次郎。
【受話器】「なにい!?内調に?そりゃまた…」
そりゃまた…何なの?続きが気になるわね…
「あによ、何か文句有るの?言っとくけど、合法的に決まった事なんだから」
【受話器】「おまえの口から合法なんて言葉が出るなんて、にわかに信じがたいぜ…」
「…まあ、本部長がやった事だからいいんだけど…」
【受話器】「それ、職権乱用になるんじゃないのか?」
そうよ!本部長のせいよ、きっと裏で何か怪しいことでもやってるんだわ…って本部長…今の本音じゃないから、絶対。フォロー、フォローっと…
「世の中不景気で人員不足なのよ。しょうがないのよ…」
【受話器】「人員不足か…それで思い出した。確か…おまえの上司が甲野という名前だったな」
「ちょっと!何で本部長の名前を知ってるの?」
【受話器】「数ヶ月程前だったか?ちょうど、おまえが入院したばかりの日だな。その上司が俺の所にスカウトしに来てたよ」
「ええっ!?私が寝てる間に?スカウト!?…それでどうしたの?」
【受話器】「断ったよ。俺は気楽な探偵家業が性に合ってるんでな…そう言ったらガックリきて、『残念だねぇ…』などとぼやいていたよ」
ま、当然ね…それにしても本部長ったら、小次郎をスカウトなんて聞いてないわよ…後で問い質さないとね…
「へぇ…あの本部長がね…」
【受話器】「ああ…法条?用事がそれだけなら切っていいか?電話代が心配なんでな…」
「相変わらずね。…まあ、探偵事務所が例外な所にあるのが悪いのよねぇ…じゃ切るわね」
ピッ

携帯を切って、時計を見る。
もうこんな時間…ユカちゃんを迎えに行ったほうがいいわね…
403号室を出るわよ。

【サン・マンション】
出たわ…サン・マンションよ…空に赤みが差してるわ。
急ぎましょう!

【ユカの学校】
ここはユカの学校よ…ユカちゃんは何処にいるのかしら?
【・・・】「まりなさん!遅いですよぉー!」
校舎のほうからユカちゃんの声がした。
向こうに居るのね…ユカちゃんを迎えに行きましょう。
「…ごめんごめん、色々用事があったから…」
パンッと手を合わせて謝る私。ユカちゃんは、ぷうっと頬を膨らませて怒っていた。
【藤井ユカ】「それにしても、遅いですよお」
「だから…ごめんって言ってるじゃない…さあ、買い物に行って帰りましょう」
【藤井ユカ】「うん…まりなさん、退院できてよかったね!」
「ユカちゃん…ありがとう。夜は友人がくるからね…」
【藤井ユカ】「まりなさんの友人て…弥生お姉さんですか?」
「そうよ。今日はジャンジャンやるわけだから、色々酒を買っとかないとね」
【藤井ユカ】「私、コカコーラ!」
「わかったわよ…おやつとかも…」
その後、私たちはコンビニで色々夜食を買い込んだ。

【サン・マンション】
ふぃ〜〜すっかり夜になってしまったわね…弥生待ちくたびれてなきゃいいけど…
【藤井ユカ】「まりなさぁん…重いですよぉこれ…」
かなりの量が詰まっているコンビニ袋を両手にふらついているユカちゃん。
私の方は、アルコール類の瓶を詰め込んだ袋で手一杯だ。
「もうちょっとよ…後少しだから」
ユカちゃんは、そんなぁといいたそうな顔をして、何とかがんばる。
ユカちゃんファイトよ!と私は心で応援する。

なんとか403号室前に辿り着き、ドアの鍵を開けようとすると…
【・・・】「…まりな?なにやってんだ?」
「えっ?」
403号室の隣――402号室のドアから弥生が顔を出していた。相変わらずタバコをふかしているわね…
「弥生?見てわかんないの?」
【弥生】「う〜ん…袋を持たせて引きずり回してるように見えるが…」
「違うわよ…買い物の帰りよ。弥生が冗談言っても面白くもないわ」
【弥生】「そうか、やっぱり面白くないか…まあ、冗談なんて滅多に言わないからな私は」
「判ってるならいいの。それより、これから退院祝いをやるから早く来てね。」
【弥生】「そうだな…私も何か用意しとこう」
「いよっ!待ってましたっ」
【藤井ユカ】「まりなさぁん…いつ入れるんですか?」
「えっ!?ああっ!ごめんごめん忘れてた。今すぐ開けるから…」

ガチャッ…
ドアが開くと同時にユカちゃんは、そそくさと入っていった。
【弥生】「まりな…ほどほどにしといたほうがいいぞ?」
「わかってるわよ…」
そういって弥生は部屋へ引っ込んでいった。さて、私も入ろうかな…

【403号室】
バタム…
ドアを閉める。ユカちゃんは早速ベッド上で、うーんと体を伸ばしていた。
【藤井ユカ】「まりなさん…酷いですよぉ。忘れるなんて」
「ごめんごめん!てっきりドアを開けたと思ってたから…」
【藤井ユカ】「…でも、これから祝いをやるんでしょ?先に風呂入るから…」
「ええ…そうね。後で私も入るから」
そう言うと、ユカちゃんは一人で風呂場へと行った。
…ふぅ…気まずいわね。私ってば何をやってんだろ…明日から任務だってのに。こう気が抜けやすいと問題ね。よっしゃ!私も風呂はいろっかな。

いそいそと風呂場へ行く準備をしてから入った。
「ユカちゃん?入るわ」
ガラッ
ユカちゃんは体を洗っている最中だった。にも関わらず、ずかずかと入って湯船に浸かる私。
【藤井ユカ】「ま、まりなさん!?何で…」
「いいのいいの女同士なんだから」
【藤井ユカ】「そんなことじゃなくて…」
「あ〜やっぱり湯船だと疲れが取れるわね…」
【藤井ユカ】「…………」
ユカちゃんは、ちょっと恨めしそうな顔で私を見る。ちょっと悪いことしたかな…
体を洗い終わったのか、ユカちゃんは私が入っている湯船の中に一緒に入る。

あ〜〜やっぱり風呂はいいわね…温泉行ってる人が羨ましくなるわ…こちらは休暇でも申請しない限り温泉に行くなんてとても出来ないわよ…
私は湯船の中で手を握ったり開いたりして手の調子を見る。それを見たユカちゃんが心配そうな顔で聞く。
【藤井ユカ】「まりなさん…手、大丈夫?」
「これ?何てこと無いわよ…順調に回復できたおかげね」
私は手をひらひらさせて言う。
【藤井ユカ】「そうなんだ…よかったぁ…」
ユカちゃんは安心した表情をして私に抱きつく。
「こ…こらっ!抱きつかないの…湯船だから、よけい暑いわ」
私は暑さに耐え切れず、湯船を上がって体を洗う。少ししてから、ユカちゃんも上がって風呂場へ出ていった。

ガラッ…
風呂場に出て、いつもの服装に着替える。頭にバスタオルを巻きつけたままリビングに出ると…

ピンポーン…
ドアのベルが鳴る。弥生ね…
「はいは〜い、ちょっと待って」
ガチャッ…
【弥生】「待たせたな…ほれ、酒だ」
鍵を開けるなり弥生が入ってきて、酒が入っているとおぼしき袋を差し出した。
「…随分遅かったわね?」
【弥生】「ああ…どの酒を持って行こうかと思ってな…迷ってたんだ」
「一体どれくらいの酒蔵量があると、こんなに遅くなるのよ?」
にやけた顔で弥生をからかう。
【弥生】「いやっ…それは…そんなことはどうでもいいだろう。上がらせてくれないか?」
開き直ったわね。これが弥生の本性よ…ってのは嘘。
「ま、確かにね。上がってもいいわよ」
【弥生】「お邪魔するぞ。おっユカ、久しぶりだな元気だったか?」
【藤井ユカ】「あっ…今晩は、弥生お姉さん」
私は弥生の持ってきた袋を覗く。
「おおうっ!なかなかの酒をお持ちのようで」
【弥生】「秘蔵の酒だ。なかなかいけそうな物だろ?」
「でかしたっ!!弥生っさあ、ジャンジャン飲むわよ」
【弥生】「まりな、おまえ明日仕事あるんじゃないのか?」
「あるけど…大丈夫よ。それ程、過酷な任務じゃないから。」
【弥生】「まりながそう言うなら。さて飲もうか…」
【藤井ユカ】「はーい。騒ぎましょう!」
ユカちゃんは夜食の準備を終えて床の上にちょこんと待っていた。私達もそこに座って談笑する。

「ユカちゃん、はいコーラ」
ユカちゃんにコーラが入ったコップを手渡す。
【弥生】「それにしても、よくコーラだけでハイになれるな…」
「そうね…私もそう思う。」
【藤井ユカ】「きゃははは!まりなさん面白い顔!!」
ユカちゃんはケタケタ笑いながら、おやつに手を伸ばす。あっ!?それ、あたしが狙ってた奴!全部食わせてたまるか!
私も負けじと、ユカちゃんよりも手を伸ばそうとする。が、一足先に弥生に先手打たれる。
【弥生】「まりな、甘いな…こんなのは、気配をそうと悟らせずに取るもんだぞ」
「くっそ〜弥生に負けるなんて!」
【藤井ユカ】「悔しいです!取り返すです!!」
ユカちゃんはそう言って、奪取に挑戦するが、敢え無く撃沈。
【弥生】「まだまだ…」
今のうちだ…!わたしはそう思って弥生の手の行き先を予測して手を伸ばす!
【弥生】「あっ!」
どたん!
「いてて…」
【弥生】「いたた…どう言うつもりだ?まりな…ってお前なにやってんだ!?」
弥生にそう言われて、今どんな状態か思い出す。どうやら勢いあまって弥生を押し倒した格好らしい。
しかし、その直後におやつへ思考が行く。弥生は動揺して、そんな余裕は無かったようだ。
チャーンス☆
わたしはすぐさまに弥生の手の中をひったくる。
【弥生&藤井ユカ】『あっ!!』
「う〜ん…おいしい☆」
【弥生】「卑怯だぞ…まりな」
【藤井ユカ】「です!」
ユカちゃんは弥生に賛同する。しかし、あたしはそれに動じずきっぱり言う。
「これ、先手必勝!早い者勝ちよ。」
誇らしげに言う…が、それが裏目に出る。何と弥生は他のおやつに手を出し始めたのだ!ユカちゃんも同様である…
【弥生】「ふっふっふ…まりな、詰めが甘い」
【藤井ユカ】「…です!」
二人して怪しげな笑顔を浮かべる。くっ…やるな!
…………
「あーあ、何か暑くなってきたわ…」
そう言いながら本来はビールを入れるためのジョッキにワインとか日本酒をドプドプ注いで飲む。たまには、こんな豪快な飲み方もいいわね…一味違った雰囲気が楽しめるし。
【弥生】「そうだな…冷えたビールとかをイッキで飲みたい気分だ。」
【藤井ユカ】「コーラ、コーラ!」
ユカちゃん…コーラで酔わないで…
アルコールが体中を駆け巡ったか暑くなり始め、上着がもどかしく感じる。
「あーもう!駄目だ。脱いじゃえっ!」
上着だけを脱いでタンクトップ、下着だけを残す。弥生もそう思ったか、上着を脱ぎ出す。
【弥生】「やっぱり酒を飲むときは下着だけが快適だな」
「同感ね。暑苦しいと、さっぱりした酔い気分になれないもんね。」
【藤井ユカ】「えー私、全然暑くないですよぉ?」
それは、コーラだから…
【弥生】「そうだな…ユカにも飲ませたほうがいいんじゃないか?」
「そうね…このままじゃ場の雰囲気ってもんが或るでしょうし…」
【弥生】「じゃあ、決定だ。」
弥生はそう言ってコップを取りに行った。
さーて…私は酒を見繕いますか。…ユカちゃん初めてだから、最初は軽いほうがいいわね?
弥生がコップを持って戻ってくる。
【弥生】「持ってきたぞ…まりな、酒のほうは決まったか?」
「そうね…決まったというか、定番のビールだけど」
【弥生】「まあ、最初はそんなもんだろう」
弥生はそう言ってビールを開けて、コップに並々と注ぐ。
コップに注ぎ終えると、それをユカちゃんの手の中にあるコーラとすり替える。
【弥生】「はい…これで体が中から暖まるぞ」
【藤井ユカ】「そうなんですか?じゃ、飲みます!」
「イッキ!イッキ!」
私が応援すると、ユカちゃんは少し躊躇したようだ。
【弥生】「おいおい、公務員が先んじてイッキを勧めるなよ…まあ、ゆっくりいけ。」
【藤井ユカ】「う、うん…んんっ」
ぐび…ぐび…
コップに口をつけてそのまま飲み切ろうとするユカちゃん…
【弥生】「おおっ!いけいけっ頑張るんだ!」
何時の間にか弥生は私と同じ応援の立場にまわってしまっている。
【藤井ユカ】「ぷはぁ〜〜っ!…あ……これらら…ほんろにあだなまる…」
ばたん…
ユカちゃんは飲み切った直後、アルコールが回ったのか床に倒れる。
「あらら…ちょっとやり過ぎたみたい。ちょっと大丈夫!?」
さすがに心配になってユカちゃんの肩を揺さぶるが、すぅーすぅーと寝息がしたので、安心する。
【弥生】「大丈夫なようだな…さすがに、今のはまずかったかな?」
「何言ってんのよ…この場合共犯でしょ?」
【弥生】「それは遠慮するよ。まりな、寝かせてやったらどうだ?」
そう言いつつ…ユカちゃんをチラッと見る。
そうね…このまま寝られてもね。わたしはそう思って、ユカちゃんの傍に行ってベッドまで運んであげる。
【弥生】「さて、もう一度飲みなおすか?」
「賛成!…でも、明日は任務があるからそう遅くまでは出来ないから。」
【弥生】「それはこっちも同じだ。少ししてからお開きするか?」
「そうしましょう。」
私達は暫く酒を飲みながら談笑した。数ヶ月前から今日までの出来事、私のアメリカ遠征の話などで盛り上がった。
【弥生】「あははは!そりゃ災難だったな…で、そいつはどうなったんだ?」
「別にどうもしなかったわ。ただ、ちょーっとむかついて腕を捻って足の甲を踏んづけてやったら、すぐに平謝りして逃げるのよ…失礼しちゃうわ!」
【弥生】「そいつは根性が無い奴だ、まりなもつくづく男運がないな…もうこんな時間か。話してると時間の流れを感じないのは本当らしいな…」
「そうね…そろそろお開きにしましょうか?」
【弥生】「片付け手伝ってやるよ」
弥生はそう言って、おつまみを乗せた皿等を台所へ持っていく。共同作業だったためか、倍の速さで片付いた。
「弥生、助かったわ」
【弥生】「何、こちらも楽しませてくれたからな。ホンの感謝だよ…じゃあ、また今度な」
「ええ…またね」
私がそう言うと弥生は玄関の外へ行った。
バタム…ガチャッ。

はぁ〜〜今日はいろいろあったわね…
ベッドを見ると、ユカちゃんが気持ちよさそうに寝ている。
あ〜ベッド見るとそこへ行って寝たくなる…いいや、明日すぐ任務なんだから今のうちに寝てしまおう!
そう思って風呂場の洗面所へ行って就寝の用意をする。
シャコシャコ…歯を磨いている音ね。
う〜ん…明日から任務ねぇ…そう言えば本部長からFAX送るって言ってたっけ…寝る直前に一応目を通したほうがいいわね…
まさか氷室さんと共同捜査なんて…私は情報関係はからっきしなのに。大丈夫かな?
そうそう、天城小次郎よ!今度機会あったら、本部長に聞いて見なきゃ!
ジャー…ガラガラ…ジャー…
…っとタオルタオル…どこに行ったっけ?そうだ思い出したわ…トランクの中。持ってくるの忘れてた…
ガラッ…
トランクの中を探る。あった…ふきふきっと。さっぱりするわね。
テーブルを見る…すでにFAXは受信していたようだ。
バサッ…何々…私はFAXの内容をざっと目に通す。

…によって、外務省から情報捜査の要請があった…内容は次の通り。…外国政府の要人ね。先程の来日時、その側近の行動に疑問が…へぇこれは政治問題ね?…について、側近の行動情報を集める事。
これは難しいわね…でも、氷室さんじゃ役不足よね…確かに。本部長はそれを知ってて私達に役割分担するつもりなんだわ。メインとなる情報捜査に氷室さんを、私は相手の行動を予測して先手を討つってとこかしら?
…まだ続きがあるわね。
――なお、この情報は…外国政府の要請であり、要人を疑うわけではないがバックに側近が動いており、これが資金の供給源となっている可能性がある…
はぁ…政治の世界って時々判らなくなる時があるわ…まぁ、私達はそれを調べて報告するだけなんだけどね…
見終わったFAXの書類をテーブルに放り出す。

ばふっ…
私はベッドに寝転がって、天井を見つめる…今日は星空がチラチラと見えるわね。
……明日は任務よ…退屈な仕事になること請け合いだわ。…ただパートナーの氷室さんと行動するわけだから、少しは退屈しないかもね…
も〜いいや。考えるの止めて寝ちゃお!

パチッ。
スイッチを切る。天井から人工の光が失われると、入れ替わりに星空の光が降り注ぐ。
綺麗…
私は心の底からそう思った。
「……ん」
私は目を瞑って、アルコール酔いしれる体に身を委ねる。こんな気分は久し振り…いつまでもこんな気分だったらいいな――。


ADAM -The affair after- 【まりな編――了】





ADAM -??? ??????? ????-【特別予告編】


.... which she isn't smiling on sincerity.
We can't smile to her sincerely ,too...
.... for us to exploit her.
And a swarm's human dies ...

All...

" XTORT of EVE "――.


【まりな】「はろはろー。続編のお知らせね…小説だけど。まあ、ここらへんは作者の勝手な独断で思いついた続編と言う訳で…」
【小次郎】「…それ言っちまったら、続編で出させてくれないかもな…」
【まりな】「ぎくっ。それは困るわ、このダイナマイトボディで男達を悩殺するのよっ!!」
【小次郎】「でも作者の事だぜ?何やらされるか…」
【まりな】「それもそうねぇ…何せ、へぼ作者の事だし。精々三流シナリオしかかけないでしょーね。」
【小次郎】「でもなぁ…上にある英語、ヤバイこと書いてあるぞ?」
【まりな】「…ホントね…私達生き残れるのかしら?」
【小次郎】「ちなみに上にある英語は訳しない…それをやったら、続きが書けなくなるから…と言うことらしい。もし知りたかったら、各自辞書で調べて欲しいと言うことだな。」
【まりな】「何よ作者、サービス精神乏しいわね…あれ?副題も隠されてる…」
【小次郎】「ああ…あれか?まだ考えていないそうだ。いくつかリストに上がってるらしいが…」
【まりな】「嘘!だって、あれキチンとスペース入れてるじゃない…もう決まってるも当然じゃないの?」
【小次郎】「そ、そうなのか?」
【まりな】「そうじゃないの?」
【小次郎】「…………」
【まりな】「…………」
【小次郎】「ま、まあ…なんであれ、作者の伝言があるな…えーと『おはよう、こんにちは、こんばんは、初めまして。』何だこりゃ…」
【まりな】「いいから!続きを…『ADAM -The affair
after-【小次郎編/まりな編】をお楽しみ戴けましたでしょうか?これから書く続編はかなりの本格派です。これがユーザーライブラリに載っている時点で書き始めているかもしれません…』何よ。まだ書いてないの?」
【小次郎】「何だって!?…まてよ?もうちょっと続きがあるぜ…何々『今、ネタを考えていますので、全体的に出来あがるのに、早くても一ヶ月以上は掛かるかもしれません…』だってさ。」
【まりな】「作者に三流は誉めすぎよ。凡人以下!これ決定!!」
【小次郎】「おいおい…落ち着けよ。『内容的にはかなりの大作を予定しています…二つ程。その内一つがこの後の続編で、前編・中編・後編、さらにサイトごとに分けて…お馴染み小次郎編・まりな編で多少、新キャラクター追加…その他もろもろ仕掛けを…』作者、これ以上やったら死ぬんじゃないか?」
【まりな】「二つ程の大作!そんなにあるの?『…ちなみに新しい挑戦かもしれませんが、一風変わったマルチサイトを予定しています。しかし、困ったことに…この続編は終わりが見えてこないんですよ…確かなのは、この続編の後にも続編が有る事になっていますが…はてさてどうなることやら…自信無いですねぇ』…いい加減な作者ね。」
【小次郎】「しかし…新キャラクターって…誰だろうな?気になるぜ…」
【まりな】「そうね…作者に尋問でもかけてみようかしら?」
【小次郎】「止したほうがいいんじゃないか?廃人になっちまうかも…」
【まりな】「それもそうね…作者の伝言、これだけ?」
【小次郎】「そうらしいな。追伸が書いてある…『ああ、ちなみに続編に繋げるために始めから、ADAM
-The affair after-は序章という位置付けで書きました…』」
【まりな】「…………」
【小次郎】「…………」
くしゃぐしゃ……ポイッ。
【まりな】「さて、今までのは忘れて、続編の私に期待あれ!!思う存分に暴れまくって本部長に言いたい放題するわ!」
【小次郎】「続編の俺にも期待してろよ。久々の危険な雰囲気を楽しめると思うからな…」
【まりな&小次郎】「では続編で会おう!!」


ADAM -??? ??????? ????-【特別予告編――了】


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