愛煙探偵ば〜じにあすりむ

　あまぎ探偵事務所というものを運営していたんだが今は違う。
桂木探偵事務所と言う所で働いている。俺が世話になっていたところだ。
まぁ、いろいろあって俺は去っていったのだが‥‥出戻りした。

　こっちのは桂木弥生（かつらぎやよい）。俺様の妻だ。
名前から安易な結び付けしてもらっても構わないぜ。まんまだしな。

　うむ、出来てしまったからな、がきんちょが。
そんなこんなで俺様は結婚する事にしたよ。

　それを機に出戻りする事とした‥‥が、
事務所の名前は桂木のままにしておきたかった。

　あまぎ探偵事務所は廃業したよ、と言うか吸収合併された。
そんな所だ。

「‥‥ふぅ」

「何よ、あんた最近それば‥‥っかね」

「ためが長いぞ‥‥氷室」

「同じ科白ばっか、聴かされている身にもなってよね」

「はいはい‥‥」

　俺は今、浮気現場をこのカメラに収めるべく、尾行をしている。
相棒の氷室恭子（ひむろきょうこ）とともに。

　元々俺の事務所、あまぎ探偵事務所に在籍して（い）たんだが、
吸収合併の際に移籍してもらった。

　氷室の言い分も尤（もっと）もだ、最近この手の溜息が多い。

　体調もなんかおかしいような気がするが、探偵依頼は
何処から沸いてくるものなのか、片付けても片付けても減らないものだ。

　ドウセ大した事は無いだろう、
俺は体に向かって無視を決め込んでいるのさ。

「小次郎！」

「なんだ‥‥ちぃ！！」

　浮気相手（もくひょう）がいきなり走り始めやがった。
くそ、気付かれたか？！　氷室は先に走り出した。

　俺も‥‥と思った刹那、胸に衝撃が走った。

「‥‥‥‥っ」

　視界が歪む、氷室が壁を走っているように見えた‥‥忍者かあいつは？
‥‥じゃないな、身体が言う事を効かないぞ。

　これは‥‥結構‥‥ヤバイ‥‥か‥‥‥‥も‥‥‥‥‥‥‥‥な。

号



外

　桂木探偵事務所の天城小次郎、死去。
裏も表も、世界は騒然となった‥‥影響力がある男だった。

愛煙家ですね、奥さん。 私も経験ありますからねぇ。自慢できない経験が。 愛するものを自分で殺したようなものですからね。 これは愛煙家の宿命とも言えるものですよ。 それでも吸い続けますか‥‥？ 卑怯な言い方ですが、貴女のお腹の中には居ますよ。 私は吸いつづける限り、もう結婚はしないと、覚悟は決めています。 誰もそんなことは強要出来ませんが、私が出来うる仕事はこんなものですよ。 所詮カウンセラーなんて言うのはこんなもんです。

　天城弥生、旧姓桂木。
愛煙家であった自分を完全に捨てた日。

　その日はクリスマス、雪がシンシンと舞い降りる‥‥‥‥‥‥。
全ての愛しい人に捧げる、死者の涙だったのかもしれない。

　この年だけは異例だった。
年が明けるその日まで、降り止む事は無かったと言う。