1.ナンプレは解を1つしか持たないパズルである
雑誌やスマホアプリなどで世に出ているナンプレを解いていくと、すべてのマスが数字で埋まって解き終えることができますね。
これは「ナンプレの解はただ1つしかない」ということを意味しています。
しかし、実は、ナンプレのルールには「解は1つしか持たない」という文言がありません。
タテ列・ヨコ列・ブロックに関するルールはあるけれど、解の個数については明記されていないんですね。
でも、何百何千と解いてきた方々でも、複数解を持つナンプレを目にしたことはほとんどないと思います。
あったとしてもそれは出題者側のミスで、後にお詫びが掲載されたりする。
というのも、ナンプレは「解は必ずただ1つ」が原則であり、複数解を持つナンプレは良い作品とは認められないからなんです。
そうなると、その原則に則った解法が考え出されてもおかしくありません。
解はただ1つしかない。
じゃぁ、複数解が生じるような理屈はおかしいんじゃない?
こういうわけですね。
そういう観点から Unique Rectangle や Bivalue Universal Grave などの解法が生まれていきました。
複数解を逆手に利用した解法は多く存在します。
そして、「複数解パターン」と呼ばれる物が各解法ごとに存在します。
次セクション2では、複数解パターンの一例を解説します。
2.複数解の起こるパターン
「盤面の一部にこの形が現れたら、もぅ複数解は免れない」
ナンプレには、こういう形が存在します。
これを 複数解パターン と呼びます。
複数解の忌避を根拠とする解法はいくつかありますが、解法に応じて複数解パターンの形は異なります。
当セクションでは、一例として最も簡単なパターンを紹介しましょう。
図2-1、黄色4マスが矩形状に並んでいますね。
この4マスは次の状況になっています。
- 黄色4マスは、タテ2列・ヨコ2列・ブロック2個にのみ属している。
- どの黄色マスも候補数字は2つだけ。しかも、すべて同じ。
黄色マスの属するヨコ列は2つ(2行目と4行目)。
黄色マスの属するタテ列は2つ(2列目と3列目)。
黄色マスの属するブロックは2つ(左上隅とそのすぐ下)。
そして、黄色4マスはすべて数字1と2しか入れられません。
ナンプレを解く上で、前図2-1 のような箇所があると不都合が生じます。
最後まで解き終えることができなくなる!
一応、うまいこと解き進められれば、図2-2 のように 77マスまでなら数字で埋められるかもしれません。
ところが、これ以上マスが埋まらない。
どうしてもここから先へ進めない!
それもそのはずで、前図2-2 の状況からは完成図を2通り作ることができるんです。
図2-3 のように。
黄色マスのどれか1つに数字1を入れても数字2を入れても完成できてしまう。
もちろん、両者の完成図は異なるから、解が複数存在することになる。
結局、図2-1 の状況が生まれた時点で、もぅそのナンプレは複数解を免れないんですね。
図2-1 の黄色4マス、これが複数解パターンです。
「このマスはこの数字で確定する!」
これが最後の1マスまで続くから、ナンプレは完成まで解き進めることができる。
ところが、盤面に複数解パターンができるとその流れは途絶えてしまう。
どんなに解き進めたとしても、結局は 図2-2 のような状況に陥って解けなくなってしまう……。
解けないことがわかると、解く意欲が急激に冷める。
解けた達成感のないナンプレなんて解く意味がありません。
そういう状況を避けるため、ナンプレ製作者は必ず唯一解を持つように作っています。
そのようなナンプレを解いている時、複数解パターンが現れることは絶対にありません。
したがって、複数解パターンは必ず間接的な使い方をします。
- ナンプレ盤面に複数解パターンが現れそうになったら、それを避けよう!
Unique Rectangle などの複数解系解法は、この使い方で結論を導いています。
詳しくは各解法のページをご覧ください。
また、複数解に関するパターンとして「unavoidable set」という高難度の物もあります。
それについては、Unavoidable Set のページをご覧ください。
3.なぜ複数解を持つナンプレは良い作品とは認められないのか?
なぜ複数解を持つナンプレは良い作品とは認められないのか?
その理由を説明しましょう。
まぁ手っ取り早く言うと「そんなナンプレは面白くないから」です。
問題図を1つ作ってみました。
図3-1 左側のナンプレです。
これを解くと、図3-1 右側のように75マスまで埋まる……んだけど、ここで困ったことが起こってしまいます。
どうしてもここから先へ進めない。
なぜかと言うと、空きマスの1つに数字4を入れても9を入れても完成できてしまうから。
どちらを入れてもOKなんですね。
だけど、それは「マスに入る数字を論理的には決定できない」ということも意味します。
つまり、完成目前というところで理詰めが頓挫してしまったわけです。
「最後まで理詰めで解ける」
ナンプレにおいて、これは最も重要です。
各マスに入る数字を論理的に突き止め、その積み重ねで解き進めていき、すべてのマスが埋まって完成する。
解法を駆使して1マスずつ盤面が埋まっていく手応え。ゴールできた達成感。
これが楽しくて皆さんは解いているわけです。
しかし、複数解を持つナンプレはその楽しさを奪います。
図4-1 のようにどうやっても論理の流れが途絶えてしまい、完成には至らない。
どんなに正しく解き進んでいても途中で断念を余儀なくされ、消化不良に陥る。あるいは、正解かどうかもわからん数字を試行錯誤で入れて無理やり完成させる。そんな非常につまらない行為を強いられる。
そんなナンプレ、楽しいわけがありません。もちろん達成感も得られないでしょう。
ナンプレを良作たらしめるためには、解は必ずただ1つ。これは最低限必要なんですね。
ちなみに、「最後まで理詰めで解ける」とはどういうことか?
少し具体的に言うとこういうことです。
「このマスはこの数字で確定する」
これが最後の1マスまで論理的に続く。
解いている途中のどの局面であっても、数字の確定する空きマスが必ずどこかにある。
そのマスを理詰めで見つけ、数字を確定させる。
これを最後まで繰り返して完成にたどり着く。
こういうことです。
そういう仕様のナンプレには複数解はありません。
どのマスも「数字が一意に確定するための理屈」を持ってますもんね。
必ずすべてのマスが埋まり、唯一解が保証されます。
もちろん、解いた達成感も保証されます。
当然ですが、以上のことはナンプレに限らず数理系パズル全般に言えることです。
製作者達は面白いパズルを作ることに心血を注いでいますが、「パズルに唯一解を持たせる」という基本は当然の上で作っています。
だから、ミスでも起こらない限り、複数解を持つパズルが世に出てくることはないでしょう。
4.唯一解に関する非常にややこしい2つの話
実は、唯一解に関してややこしい話がある。
このセクションでは、ちょいとその話をしてみようかと思います。
まずはセクション1を軽くおさらい。
話をかいつまんで箇条書き。
- ナンプレは解を1つしか持たないパズルである。
- その「唯一解」を根拠として Unique Rectangle や Bivalue Universal Grave などの解法が生まれた。
- しかし、「ナンプレは唯一解を持つ」とはルールに一切書かれていない。
この話をちょいと深掘りしてみると、ナンプレを解くにあたって疑問が2つ浮かんできます。
その疑問に答えてみたい。
4-1.ルール外の理屈を使うのはOK?
まずは1つめの疑問。
ルールで認められてない理屈を使うのって、OKなんだろうか?
ルールにはタテ列・ヨコ列・ブロックに対する制約のみが書かれている。
唯一解については何ひとつ書かれていない。
なのに、Unique Rectangle などの解法は勝手に唯一解を根拠にしちゃってる。
これって、許されるのだろうか?
このことに関して、ナンプレ愛好家達の間で議論が白熱したことが過去にはあったようですね。
ナンプレフォーラム『The New Sudoku Players' Forum』の Proof of uniqueness スレッドなどで議論の跡が見られ、Sudopedia(ミラーサイト)では Uniqueness Controversy というページに簡単な要約があります。
唯一解を根拠とする解法、果たしてどういう位置づけの解法なのか?
本来、パズルはルールを適用して解くものです。
ルールに無関係な理屈を使うのは正当な手段ではありません。
その点では、それらの解法は正当だとは言いにくい。
しかし、現実のナンプレは必ず唯一解を持っている。それを前提としてナンプレを解くのは現実に即しています。
その点では、それらの解法は不当だとも言いにくい。
私見ではありますが、「裏技的な解法」という言い方が良いのかもしれません。
実際、こういった裏技解法は、ナンプレの大会(World Sudoku Championship など)で選手達が使うことがあります。
裏技を使って少しでも早く解いて、得点を稼ぐためのテクニック。
いわゆる近道ですね。
大会上位陣の皆さんは誰もがマスターしていることでしょう。
しかし、それ以外で裏技を使うことはおそらく稀です。
そもそも、パズル製作者は「ルールを適用するだけで解ける問題を作る」ことを心掛けるべきであり、ルールにはない勝手な前提を解き手に押しつけてはいけない。
だから、裏技必須のナンプレ問題を作ることは避けるべきです。
そういう心掛けの下で作られたナンプレならば、裏技を使う機会はまったく訪れません。
裏技解法に対しては、「余力ができたら覚えてみよう😀」くらいの心構えで良いでしょう。
また、ナンプレを解いている最中、解き手の皆さんには「このナンプレは唯一解を持っているか?」を判断する術がありません。
解き終えた時に初めて判明することなので。
だから、皆さんは「このナンプレは唯一解を持つ」と信じちゃってOKです。
もし複数解を持っていたなら、出題者側(出版社など)からお詫びが入って「応募者全員から抽選」などの措置がとられます。
皆さんに不都合は一切ありません(つまらない思いをするくらいです)。
基本的に、実戦では皆さんがどういう解き方をしようと自由です。
裏技を使うか否かも皆さんが自由に決められます。
自分なりのポリシーの下で、好きなように解いちゃってください😃
4-2.もし唯一解を持つナンプレに複数解パターンが現れたら……?
続いて、2つめの疑問。
こんな疑問を持った方々はいませんか?
唯一解を持つナンプレに複数解パターンが現れたら、一体どうなるの?
裏技解法の解説では、複数解パターンをNGとする根拠として「複数解が生じるから」がよく挙げられます。
でも、実際にナンプレ盤面に複数解パターンが現れて複数解が生じた時、何か不都合が起こるんでしょうか。
実は、複数解パターンが現れると、こんなことが起こるんです。
- そのナンプレは必ず破綻する。
複数解パターンについては、セクション2で解説しています。
その末尾で説明した通り、唯一解を持つナンプレに複数解パターンは一切現れません。
だから、現実のナンプレは複数解パターンを1つも持ちません。
「複数解パターンを持たない」ということが成り立っているナンプレにおいて、複数解パターンを成り立たせてしまうとどうなるか?
矛盾が起きてしまうんです。
複数解パターンを持たない/持つ、相反する2つが同時に成り立っちゃう😵
その矛盾を抱えたナンプレを解き進めても、待っているのは破綻です😞
当サイトでは、裏技解法に対して「複数解パターンが発生するから」を理由に結論を出しています。
けれど、本当は
- 「唯一解を持つナンプレにおいて、複数解パターンが発生すると矛盾が生じるから」
という理由の方が正確です。
「複数解が生じるから」というより、「複数解パターンが破綻を引き起こすから」と解釈すると良いでしょう。
実戦では複数解パターンを避けて解きましょう。
逆に、実戦で複数解パターンが現れそうな時、わざとそれを作って試しに解いてみるのも一興かもしれません。
どう解き進めても破綻が待っています。
袋小路を体験してみるのも1つの面白さ。オツな遊び方としていかがでしょう😄
ちなみに、複数解パターン発生後に破綻が起きず完成に至った場合、そのナンプレは複数解を持っていることが判明します。
そういうナンプレはそもそも適切なナンプレではありません。
その時は、出題者側のお詫びをワクワクしながら待ちましょう😅
参考・参照
- Sudopedia(ミラーサイト), 『Uniqueness Controversy』,
http://sudopedia.enjoysudoku.com/Uniqueness_Controversy.html,
(2024.10. 7. 参照) - The New Sudoku Players' Forum, 『Proof of uniqueness』,
http://forum.enjoysudoku.com/proof-of-uniqueness-t55.html,
(2024.10. 7. 参照) - The New Sudoku Players' Forum, 『The words you are looking for: 'deduction' and 'induction'』,
http://forum.enjoysudoku.com/the-words-you-are-looking-for-deduction-and-induction-t805.html,
(2024.10. 7. 参照)
更新履歴
- 2022. 2. 5.
- 新規公開。
- 2022.11.14.
- セクション1に「なぜ複数解を持つナンプレは良い作品とは認められないのか?」を追記。
- 2023. 3.31.
- ページ冒頭に難易度表記を追加。
- 2024.10. 9.
- セクション4と参考文献を追加。
- 2024.11.22.
- 旧セクション2の内容(複数解パターンの解説)を切り離し、複数解パターン のページへ移動。
- 旧セクション3の内容(unavoidable set の解説)を切り離し、Unavoidable Set のページへ移動。
- セクション1の追記記事「なぜ複数解を持つナンプレは良い作品とは認められないのか?」をセクション3へ移動。
- セクション4をサブセクションへ細分化。
- 内容を精査し、文章の一部を加筆・修正。