フィボナッチ数列と面積1のパラドックス

 定番パラドックス話について、こんな考察をしてみました。
 フィボナッチ数列とはこういう関係もあったんですなぁ。

1.こんなパラドックス、ありましたよね

図 1-1
面積1のパラドックスの定番

 パラドックスの定番として、こんな話がありますよね。
 直角三角形をいくつかに分割して並べ替えると……

あれ !? 同じ直角三角形のはずなのに!
面積1のピースが余っちゃう!

 この話はパズル好きな方々はすでにご存じでしょうし、カラクリについては特に話すことはないでしょう。

 このページでは、もうちょっと踏み込んだ話をしてみます。
 このパラドックス話、実は一般化できるんです。

2.フィボナッチ数列

 まず、その前に準備をひとつ。
 こういう数列を紹介します。

1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233, 377, ……

 これは「フィボナッチ数列」と呼ばれるものです。
 なんだかテキトーに数字が並んでいるように見えるけれど、もちろん、ちゃんとした法則はあります。
 隣り合う3つの数を見てみると、その3つの数は足し算の関係になっているんです。
 たとえば、3, 5, 8 の場合は 3+5=8 だし、34, 55, 89 の場合は 34+55=89 になる。

 とは言っても、足し算の法則が成り立つのは当たり前っちゃぁ当たり前。
 なぜなら、フィボナッチ数列というのは、2個の 1 から始めてそういう「足し算」の関係を満たすように新しい数字を次々つけ足してできた数列だからです。

 しかし、実は、フィボナッチ数列には隠れた法則があるんです!
 同じように隣り合う3つの数を拾います。すると、次のことも成り立つんです。

ac-b^2=±1

 なんと、両端の数の積 ac と真ん中の数の2乗 b2 との差が 1 である、というわけですね。
 ちょっと検証してみましょう。
 例えば、3, 5, 8 の場合は 3×8-52=24-25=-1 ですね。
 そして、34, 55, 89 の場合は 34×89-552=3026-3025=1 となる。
 どの隣接3数をとるかによって引き算結果は変わるんだけれど、どっちにしても差は必ず 1 になるわけです(普通、「差」といえば大きい数から小さい数を引いた値のことを指しますもんね)。
 なんとも不思議。

 実を言うと、この法則はすでに証明されていて、「カッシーニ - シムソンの定理」と呼ばれるそうです。
 その定理を以下に示します。
 余力のある方々は、手頃な演習問題として証明してみるのもいいでしょう。

a[k+1]^2-a[k]・a[k+2]=±1

3.おぉ! 同じパラドックス話だ!

図 3-1
34×55バージョン

 これまで、2つの話をしました。
 セクションは「面積1のピースが余っちゃう!」という話。
 セクションは「ac と b2 の差は必ず 1 になる!」という話。
 どちらも、意味合いとしては「差が1だけ生じる」と言えますね。
 実は、一般化のカギはここにあるんです。

 で紹介した2つの図形は タテ13×ヨコ21 のサイズでした。
 この 13 と 21 はフィボナッチ数列の中に現れています。
 果たして、これは偶然なのか……?

 いや、偶然なんかじゃぁない。
 実はこんなことが言える!

  • フィボナッチ数列の中の隣り合う2つの数 c, d(c<d)を使って、タテc×ヨコdサイズの直角三角形モドキを作る。
    すると、同じようなパラドックス話を展開することができる。

 実際にやってみましょう。
 は c=13, d=21 の場合でした。
 ここでは c=34, d=55 としてみましょう。
 さぁ、図3-1 の通りです!

 おぉ、なんと言うことか。
 セクションで書いたパラドックスそのまんまの話ができあがってしまった。
 すごいね!
 「なんか分割して並べかえたら面積1のピースが余ったよ😅」って、まったく同じ話なんだもの!

4.一般的な話

図 4-1
一般的な図

 一般的な話をしましょう。

 フィボナッチ数列の中の隣り合う4つの数 a, b, c, d (a<b<c<d) を拾って、図4-1 の通りに図形を作ってみる。
 すると、図形内部の長方形と正方形の面積は常に 1 だけ違うんです。
 その理由は、セクションで述べた「ac と b2 の差は 1 である」です。

 ただ、注意しなければいけないのは、ac-b2=1 だけでなく ac-b2=-1 が成り立つ場合もあるということ。
 つまり、隣接4数 a, b, c, d の選び方によっては長方形の方が広い場合もあるし、逆に正方形の方が広い場合もあるんです。

 ということは、パラドックス話をもう1種類作れますね。
 セクションでは「面積1のピースが余った!」という話を紹介したけれど、逆の話もできる。
 「あれ? 面積1のピースが足りないぞ?」なんてね。

 ちなみに、の話は a=5, b=8, c=13, d=21 の場合、の話は a=13, b=21, c=34, d=55 の場合に相当します。

 いや〜すごい!
 フィボナッチ数列ひとつで、いろんなサイズのパラドックス話ができる。
 こうなったら、大きな直角三角形モドキをつくって独自のパラドックス話を講じてみるのも一興かもしれません。
 例えば、タテ233×ヨコ377 サイズなんてどうでしょ?

 ……えぇもぅ、「オマエがやれ」と言わんばかりの皆さんの冷たい視線が目に浮かんでますよ😅

5.もうひとつのパラドックス話

図 5-1
もうひとつ

 もうひとつ、似たようなパラドックス話がありますよね。
 図5-1 のように、正方形を4つに分割して並べかえると……

あれ? いつのまにか面積が1減ってる!?

 これも「1違いパラドックス」の定番だけれど、図5-1 をよく見ると、正方形&長方形ともに各辺の目盛り数字には 5, 8, 13 がある。
 フィボナッチ数列に存在する数字なんです。
 そして、長方形と正方形の面積計算に現れる数字は 8, 13, 21。
 これもフィボナッチ数列に存在している。

 実は、このパラドックス話もフィボナッチ数列で一般化できるんです。
 こんな感じです。

  • フィボナッチ数列の隣り合う3つの数 b, c, d (b<c<d) を拾い、一辺を c とする正方形 と タテ b ×ヨコ d サイズの長方形を作る。
    これで、同じようなパラドックス話を展開できる。
図 5-2
もうひとつ

 一般的な話をしましょう。

 フィボナッチ数列の中の隣り合う4つの数 a, b, c, d(a<b<c<d)を拾って、図5-2 の通りに正方形と長方形を作る。
 すると、この2つの面積は常に 1 だけ違うんです。
 なぜなら、b, c, d はフィボナッチ数列の隣り合う3数だから。
 セクションで「両端の数の積と真ん中の数の2乗との差が 1 である」と述べました。このおかげで bd と c2 の差は必ず 1 になるわけなんですね。

 もちろん、セクションと同様に、4数 a, b, c, d の選び方によっては bd-c2=1 だけでなく bd-c2=-1 が成り立つ場合もあります。
 だから、「面積1減った!」という話のほかに「面積1増えた!」なんていう話もできたりするわけです。

 足し算の連続で作られたフィボナッチ数列。
 これがパズルの世界にも関わっている。
 面白いモンです。

6.おまけ

 オマケとして、フィボナッチ数列に関してもうひとつ。
 セクションにある図を見ると、少し濃いめの直角三角形が2つあって斜辺がほとんど同じ傾きになってますよね。
 これにもちょっとした秘密がありまして。

図 6-1

 濃いめの直角三角形、縦横の長さを見てみましょう。
 では、小さい方は 5 と 8、大きい方は 8 と 13 ですね。
 では、小さい方は 13 と 21、大きい方は 21 と 34 です。
 この数字達をよく見ると……、フィボナッチ数列の中で隣り合う数になっているんです。

1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, ……

 斜辺の傾き具合は、直角を挟む2辺の縦横比によって決まります。
 そして、その縦横比が等しければ、傾きも同じになるんですね。
 では、図6-1 にある4つの直角三角形の縦横比をそれぞれ計算してみましょう。
 ヨコ幅をタテ幅で割り算してみます。

8÷5 = 1.6
13÷8 = 1.625
21÷13 = 1.615384……
34÷21 = 1.619047……

 おおぉ! ずいぶん似たような値が並びましたね。
 縦横比はどれも 1:1.61 くらいかな😃

 さらに続けましょう。
 フィボナッチ数列の隣り合う2数で割り算をしてみます。

55÷34 = 1.617647……
89÷55 = 1.618181……
144÷89 = 1.617977……
233÷144 = 1.618055……
377÷233 = 1.618025……
(以下略)

 なんと! 先の4つよりもさらに値が似ている!
 縦横比は 1:1.618 くらいですね。

 この 1.618 という数字、何者なんでしょう?
 ……と言っても、ピーンときた方々は多いかもしれません。
 有名な値ですもんね。

 そうです。
 この 1:1.618 という比、一般に「黄金比」と呼ばれているんです。
 この黄金比、フィボナッチ数列との間には関係がひとつありまして。
 実は、こんなことが成り立つんです。

隣り合う2項の比=1:(1+√5)/2

 セクションにある「変形前・変形後」の図形って、本当に合同にしか見えませんでしたよね。
 それは、直角三角形の縦横比がすべて似通った値だったからなんです。
 だから、斜辺の傾きが同じにしか見えず、面積1のパラドックスに悩まされていたというわけなんですね。

 ちなみに、の「カッシーニ - シムソンの定理」と同様に、この黄金比に関する性質もすでに証明されています。
 その定理を以下に示します。

lim[n→∞] a[n+1]/a[n]=(1+√5)/2

 黄金比は実にさまざまなモノと関係が深かったりします。
 フィボナッチ数列のほかには、正五角形の対角線とか正20面体とか。
 興味があれば、いろいろ調べてみてください。

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