数列の極限は関数グラフが知っている

 数学界の『コラッツ予想』などでも知られる、数列の極限問題。
 それはパズルの世界にもあります。
 その問題をビジュアル的に解いてみよう!
 そういう話をしてみます。

1.パズルには数列を扱う問題もある

 最初の数に何らかの操作を繰り返して新しい数を次々作り、それらの数の行き着く先を問う。
 いわゆる「数列」を扱うパズル問題。
 パズルにはこういうタイプの問題があります。
 パズル以外だと、数学界には『コラッツ予想』という有名な問題がありますね。
 2021年には日本の企業が1億2000万円もの懸賞金をかけたことでも知られ、大きな数学問題になっています。

 まぁ、コラッツ予想は広く知られているから、その解説ページはそれはもぅWeb上に山ほどある。
 というわけで、当ページでは別の数列を題材に話をしてみたい。
 次の問題を考えてみましょうか。

 操作Pは \(x\) を \(x\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}2\) に変えます。操作Qは \(x\) を \(\cfrac{3}{x}\) に変えます。任意の数から始めてPとQの操作を交互にしていくとどんな数に近づいていくでしょうか。
 1番目の数によって,結果がどうなるか調べてください。(後略)

『ウェルズ 数理パズル358』p.66 より

 大抵、こういうパズルは予想外の結果や面白い結果になることが多いものです。
 だから、どういう答えになるのか今から楽しみだ。
 この数列は一体どこへ向かって歩んでいくのだろう?

 とりあえず、数列の本体が見えないことには話が始まらない。
 基本に立ち返って、操作P, Qで数列の先頭を少し覗いてみましょうか。
 問題文の例にならって初期値を 10 とすると、こういう数列ができました。

10, 12, 14, 94, 43, 103, 910, 2910, 3029, 8829, 8788, 26388, ……

 あぁ〜、なんとな〜く法則が見えるなぁ。
 青色の分数を見ると、分子と分母の差が1だ。
 さらに、分子も分母も値がどんどん大きくなっていってる。
 ということは、こんな予想を立てられそうですね。

この先、奇数番目の項は 1 に限りなく近づいていきそうだ。

 この数列について簡単にわかることが1つ。
 実は、偶数番目の項はさほど重要ではありません。
 なぜなら、操作Pが簡単すぎるから。2増やすだけですもんね。
 奇数番目の項さえ解明できれば、偶数番目の項も自ずと解明できるのです。

 というわけで、ここからは奇数番目の項だけ注目しましょうか!
 操作P, Qを合成して、次の操作で数列を作っていくことにします。

 ここでは、この合成させた操作を 合成操作PQ と呼ぶことにしましょう。

 初期値を 10 として合成操作PQを施した時、こうなります。

 果たしてこの予想は正しいんだろうか?
 それを確かめてみましょう!

2.あそこへ向かってスパイラル!

 前セクションでは、「1に限りなく近づきそう」と予想しましたね。
 それを確かめる方法はいくつかありますが、このセクションではビジュアルを使ってみましょう。

 座標平面上に \(y=\dfrac{3}{x\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}2}\) と \(y=x\) のグラフを用意します。
 前者のグラフがメインとなるので、前者を 主線、後者を 補助線 と簡単に呼ぶことにしましょう。
 主線上の1点からスタートして、主線→補助線→主線→補助線→…… と渡り歩く。
 そんなことをしてみます。

 ここでは初期値を 4 としておきましょう。
 合成操作PQを次々施して数列を作ると、こんな感じ。
 分子と分母の差が1で両者はどんどん大きくなるから、この数列も 1 に限りなく近づきそうですね。

4, 12, 65, 1516, 4847, 141142, 426425, ……

 では、2つのグラフを実際に渡り歩いてみましょうか!
 まず、x軸上の 4 からスタートして、主線上に点A(4, 1/2) を打ちましょう。
 ここがスタート地点です。

 Aから左に行くと補助線にぶつかりますね。左に進みましょう。
 補助線に到達したら、直角に曲がって主線にぶつかるまで上に進みます。
 点B(1/2, 6/5) に到着!

 点Bからも同じことをやりましょう。
 Bから右に進めば補助線にぶつかる。
 その後、下に進めば主線にぶつかる。
 点C(6/5, 15/16) に到着!

 こんなふうに、「ヨコタテ」を1単位として「ヨコタテヨコタテ……」と直角に曲がりながら2つのグラフを交互に渡り歩くんです。
 すると、一体どんな形ができあがるんだろう……?

 点Dも生まれ、青色の線がグルグル回る!

 なんと、それは渦巻きだった!

 なんともラーメン感あふれるスパイラル😅
 図を見ればわかる通り、この渦巻きはどんどん内部へ侵入し、とある点へ近づいていきます。
 その点とは、主線と補助線の交点 (1, 1) です。

 さて、点Dまで打ったところで、さっきの数列と点A〜Dの座標を見比べてみましょうか。

 もぉ〜わかりやすい!
 こんなにも一目瞭然な結果になるのは、主線グラフ \(y=\dfrac{3}{x\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}2}\) のおかげです。
 このグラフは、\(x\)=4 を代入すると \(y\)=1/2 を返す。つまり、x座標の値を設定すると「合成操作後の値」をy座標で教えてくれる。
 それを補助線 \(y=x\) でx座標に変換すると、主線グラフはさらに「次の値」を教えてくれる。
 こうして「次の値」を次々教えてもらえば、主線グラフ上に無数の点A, B, C, ……が続々と現れる。
 それらの点のx座標を登場順にたどれば、かの数列ができあがる。
 そして、まるで外堀を埋めるかのように取り巻くラーメンスパイラルを見れば「その数列は 1 に限りなく近づく」とすぐわかるんです。

「目で見てすぐわかる」
これがビジュアルの持つ凄さだね!

 受験勉強などで皆さんは「関数はグラフを描いて考えよ!」と教わったことと思います。
 それは、ビジュアルの力が偉大だからなんですね。
 例えば、最大値/最小値問題を解く時はグラフを描いて山頂と谷底を意識すると良い。
 2次関数のグラフを描く時は「平方完成」をするわけだけど、平方完成によって頂点の座標がわかる。頂点は放物線グラフの要所であり、それは山頂または谷底と一致する。
 こういったグラフ知識を理解していれば、最大値/最小値問題なんてほぼ作業ゲームです。
 ビジュアルは大事ヨ!

 ちなみに。
 初期値を -3 に近い値(-3 ではない)にすると、さらに風変わりなスパイラルが見られます。

 数列は -12141, -4113, -135, -5, -1, 3, 35, 1513, 3941, ……

 ダブルのスパイラル!
 もしS字の形に巻いてたら、ホントにラーメンの丼だわ😅

 このセクションでは初期値 4 と-12141 の場合で解説しましたが、他の値でも同様にラーメンスパイラルを描きます。
 いろんな初期値で試してみてください。
 値を意識しなくとも、主線と補助線を正確に描いてヨコタテヨコタテと渡り歩いても良いでしょう。
 まるでブラックホールのように交点 (1, 1) に吸い寄せられていきますよ😃

 一応、証明をこのページに書いてみました。
 「極限値」の知識が必要ですが、ヒマな時にでもどうぞ〜😊

3.破綻へのスパイラル

 さて。
 ここでネタバレをしちゃいます。
 セクションの問題、原本『ウェルズ 数理パズル358』に載っている正解はこうです。

 あぁ〜、やっぱりそうか!
 セクションで「合成操作PQで 1 に限りなく近づいていく」ことがわかったわけですもんね。
 ということは、操作P, Qを交互に施していけば奇数番目の値は 1 に近づき、偶数番目の値は2増えて 3 に近づく。
 上記の正解へと至るわけです。

 ところが!
 残念ながら、セクションの話には穴が2つある。
 1つめは、初期値が -3 だと別の結果が生じてしまうんです。

 これは実際にやってみればわかるから、解説は不要でしょう。
 また、初期値 -3 の時は前セクションの方法が使えません。
 スパイラルが描けない😞

 そして、2つめ。
 これは、たぶん皆さん薄々気付いてただろうなぁと思います。

初期値 が -2 だとマズいんじゃない?

 理由は簡単。
 操作Qで分母がゼロになる。
 -2 → 0 → 30 は絶対にマズいですもんね。数列が破綻しちゃう😵
 しかも、これは -2 に限った話ではありません。
 操作Pの直前に -2 になってはダメなのだから、他にも破綻を引き起こす初期値はあるんです。

 もちろん、そういう「NG初期値」は排除しなきゃいけません。
 ただ、NG初期値もラーメンスパイラルで見つけることができます。
 そこで、主線 \(y=\dfrac{3}{x\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}2}\) と補助線 \(y=x\) を使って実際に洗い出してみましょう。

 まず、y軸上の -2 からスタートして、補助線上に点A(-2, -2) を打ちましょう。
 ここが最終地点です。
 まぁ、最終地点と言うよりは「行き止まり」と言った方が正確かもしれない。
 というのも、点Aからは真上に行っても真下に行っても主線にたどり着けず、渦巻きが頓挫しちゃうからです。

 今から作る渦巻きは「点Aで終わる渦巻き」なので、Aから渦を描き始めて最後にルートを逆向きにします。
 では、点Aからスタート!
 Aから主線にぶつかるまで左に進みましょう。
 点B(-7/2, -2) に到着です。

 主線グラフは、xに値を代入すると「合成操作後の値」をy座標で教えてくれました。
 つまり、初期値が -7/2 だと次の値は -2 になり、その先には破綻が待っているわけです。
 おぉ、新しいNG初期値が見つかった!

 セクションでは主線上の点からヨコタテに進みましたが、今回は逆にタテヨコに進んでいきます。
 点Bから続けましょう。
 下に行くと補助線にぶつかりますね。下に進みましょう。
 補助線に到達したら、直角に曲がって主線にぶつかるまで右に進みます。
 点C(-20/7, -7/2) に到着!
 もちろん、-20/7 もNG初期値です。

 さっきも述べましたが、主線グラフはxの値を基に「合成操作後の値」をy座標で教えてくれます。
 逆に言うと、yに値を代入すると「合成操作前の値」をx座標で教えてくれる。
 これを利用して点B, Cのx座標を計算できますね。

 点Cからも同様に「タテヨコタテヨコ……」と直角に曲がりながら2つのグラフを交互に渡り歩きます。
 そうすると、また渦巻きができあがる。
 そして、その渦巻きのルートを逆にすると、こうなりました。

 これが、破綻へ向かうスパイラル!

 点B, C, D, …… はすべて地獄の一丁目。
 これらの初期値は点Aまで止まらない片道切符となりました。
 手詰まりに気付いても時既に遅し。天を仰ぐしかなくなります。

 点Aから逆走すると、この渦巻きはどんどん内部へ侵入し、主線と補助線の交点 (-3, -3) に限りなく近づきます。
 ということは、-3 の付近には無数のNG初期値が密集していることもわかるわけですね。
 -3 のご近所は地獄の一丁目が軒を連ねてる。
 向こう三軒両隣、すべて地獄の親戚ばかり。
 なんという恐ろしい所だ😅

 一般的なNG初期値を述べておきましょう。
 次の通りです。

 証明はこのページに書いてみました。
 まどろっこしい証明ですが、読むモン無い時にでもどうぞ~😊

 では結論。

 これで、この問題にカタがつきました😄
 めでたしめでたし。

4.ビジュアルは素敵だね

 ここからは余談です。
 決まった手続きで数列を作っていくパズル問題について、数列の収束に絡めてビジュアルの有用性を語ってみます。

 セクションでは、初期値 4 から合成操作PQを行って数列を作りましたね。
 その数列が 1 に限りなく近づくこともわかりました。
 この「限りなく近づく」を数学では 収束する と言います。
 合成操作PQでできた数列は 1 に収束する、というわけです。

 実は、ある値に収束する数列は、とある性質を必ず持っています。
 それを理解するために、初期値 4 の数列を小数(概算値)で表してみましょう。

4, 0.5, 1.2, 0.9375, 1.02128, 0.99296, 1.00235, 0.99922, 1.00026, 0.99991, ……

 隣り合う2つの数値が異様に近い。
 これが前述の「とある性質」です。
 これは、先へ進めば進むほどさらに酷似していきます。
 もはや瓜二つ。いっそイコールで結んじゃってもいいくらい!

 ……じゃぁ、本当にイコールで結んでみましょうか!
 合成操作PQによって数 \(x\) の次は \(\dfrac{3}{x\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}2}\) になるから、この2つは隣り合う数です。
 それらをイコールで結ぶと方程式ができますね。方程式を実際に解いてみましょう。

 方程式 \(x=\dfrac{3}{x+2}\) を解いてみる。

\begin{align} x=\dfrac{3}{x+2} \; &\Longrightarrow \; x(x+2)=3 \\ &\Longrightarrow \; x^2+2x-3=0 \; \Longrightarrow \; (x+3)(x-1)=0 \end{align}

 解は \(x=-3, \, 1\) である。

 あれ?
 方程式の解「1」って、数列の収束値じゃん!
 解の1つが収束値と同じだったんです。

 実は、これは偶然ではありません。
 数列が収束する場合、その収束値について方程式は重要な情報を握っているんです。
 原本『ウェルズ 数理パズル358』からちょっと引用。

 奇数項 \(x\) から始まる三つの項を見ると,\(x\) → \(x\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}2\) → \(\dfrac{3}{x\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}2}\) となり,奇数項について,ある値に近づくとしたとき \(x=\dfrac{3}{x\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}2}\) が成り立つはずです。この式をみたす \(x=1\) が奇数項の極限で,偶数項は \(x\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}2=1\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}2=3\) に近づきます。
『ウェルズ 数理パズル358』p.263 より

 方程式1つで「-3 か 1 に近づくのかな?」と数列の収束値を簡単に予想できる。
 これはかなり有用な情報です。予想値を限定できますもんね。
 予想が絶対当たるとは限らないけれど、それでも求める価値は十分にある。

 さらに、この方程式についてもう少し話をしましょう。
 実は、秘密が1つ隠れています。
 まぁ、秘密と言っても、数学を知ってる方々には常識な物ですが。

 両者の解 \(x\) は全く同じです。後者は解が \((x, y)\) とワンセットになるだけ。
 んで、後者の連立方程式をよ〜く見ると……、

あら、主線と補助線じゃぁないですか!

 そう。
 セクションで描いた2つのグラフなんです。
 グラフの交点は連立方程式の解と本質的に同じ。つまり、交点は方程式 \(x=\dfrac{3}{x\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}2}\) の解と同じだと言って良い。
 そういえば、ラーメンスパイラルは交点 (1, 1) に向かってグルグルと豪快に侵入していきましたっけ。
 でも、収束という視点で見ると、別段驚くようなことではありません。
 予想が当たっただけなのだから。

 数列の極限を問うタイプのパズル問題は、方程式とグラフが役に立ちます。
 一般に、数 \(x\) を \(f(x)\) にする操作を考える際、主線 \(y=f(x)\) と補助線 \(y=x\) の2つのグラフを描いてみる。
 そして、主線グラフ上の適当な1点からスタートしてヨコタテヨコタテと2つのグラフを渡り歩く。
 グラフの交点が結論に関係することは多いけど、交点は方程式 \(x=f(x)\) を解けばわかる。

 スタート地点をいろいろ変えると、交点以外にもさまざまな結果が得られたりします。
 とにかく交点に着目しつつヨコタテ走法だけで分析できる。これがすごい!
 かなり役に立つ方法ではないかと個人的には思っています。
 欠点は「方程式・関数・グラフの知識量が要求される」というところかなぁ。

 パズルでも、ビジュアルは魅力を引き立てます。
 問題そのものが面白いパズルはもちろん多いけれど、1個の図でエレガントに解説されているパズルもある。
 もしどうしても問題が解けない時は、いっそ解答を見るのも手です。
 美しい数学証明に惹かれるのと同じように、解答のエレガントさを堪能するのもパズルの醍醐味の1つと言えるでしょう。

 ……と書いたところで、ちょっとイイことに気が付いた!
 もしかして、

『コラッツ予想』もグラフを描けば解決できるんじゃない?

 ところが残念、それは、操作後の値が奇数か偶数かによって次の操作がコロコロ変わっちゃう。
 だから、事前にグラフを描くという行為ができません。
 あぁ〜非常に残念だ😅
 ちゃちゃっとグラフを描いて私が1億2000万もらう予定だったのに😅

参考・参照

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