合成操作を頓挫させるNG初期値

 初期値 -2 は明らかにNGですが、他にもあるんだろうか?
 一般的なNG初期値を求めてみます。

一般的なNG初期値を求めてみよう!

 合成操作PQを施して得られる有限数列 \(\{a_n\}\) において、項の個数を \(p\ (p \geqq 2)\) とします。
 そして、末項を \(a_p=-2\) とします。
 この時、初項 \(a_1\) はどんな値になるのか?
 それを探っていきます。
 数列 \(\{a_n\}\) は漸化式 \(a_n=\dfrac{3}{a_{n-1}+2}\ (n=2,3,\cdots,p)\) で作られることに注意しましょう。

 さて、\(\{a_n\}\) の性質2つを軽く証明しておきます。
 (後述の式 \((1) (2) (3)\) を保証するためです)

  • 初項以外に \(0\) は現れない。
  • どの項も \(-3\) ではない。

 どちらも漸化式で証明できます。
 まず、分子 \(\ne 0\) である分数は \(0\) になり得ません。
 よって、初項以外は \(0\) ではありません。
 また、「\(a_{n-1}=-3\) ならば \(a_n=-3\)」つまり「\(a_n \neq -3\) ならば \(a_{n-1} \neq -3\)」も成り立ちます。
 ある項が \(-3\) でないなら1つ前の項も \(-3\) ではない、というわけです。
 これと \(a_p \neq -3\) により \(a_{p-1} \neq -3\) が得られ、項を1つ遡って同じ理屈を適用すれば \(a_{p-2} \neq -3\) も得られます。
 以下、同様に続けると、どの項も \(-3\) ではありません。

 さて、漸化式を変形すると \(a_{n-1}=\dfrac{3}{a_n}-2\) です。
 これを2通りに変形します。 \begin{align} a_{n-1} - 1 &= \dfrac{3}{a_n} - 3 = \dfrac{-3(a_n-1)}{a_n} \tag{1} \\[0.5em] a_{n-1} + 3 &= \dfrac{3}{a_n} + 1 = \dfrac{a_n+3}{a_n} \tag{2} \end{align}  \((1)\)を\((2)\)で辺々割ると \[ \dfrac{a_{n-1}-1}{a_{n-1}+3} = \dfrac{-3(a_n-1)}{a_n} \div \dfrac{a_n+3}{a_n} = (-3)\cdot\dfrac{a_n-1}{a_n+3} \tag{3} \]  ここで、\(b_n=\dfrac{a_n-1}{a_n+3}\ (n=1, 2, \cdots,p)\) とおくと、\((3)\) は \(b_{n-1}=(-3)b_n\) となります。
 これを \(b_1\) から順に適用し、\(a_p=-2\) に気を付ければ \begin{align} b_1 &= (-3)b_2 = (-3)^2\,b_3 = \cdots\cdots = (-3)^{p-1}\,b_p \\[0.25em] &= (-3)^{p-1}\cdot\dfrac{a_p-1}{a_p+3} \\[0.25em] &= (-3)^{p-1}\cdot\dfrac{-2-1}{-2+3} \\[0.25em] &= (-3)^p \end{align}  よって、\(\dfrac{a_1-1}{a_1+3} = (-3)^p\) が成り立ち、これを \(a_1\) について解けば、 \[ a_1=\dfrac{(-3)^{p+1}-1}{(-3)^p-1} \tag{4} \]

 上記の論述は \(p \geqq 2\) 限定で成り立ちますが、\((4)\) は \(p=1\) の時も成り立ちます。
 したがって、合成操作PQを頓挫させる初期値は \(\dfrac{(-3)^{n+1}-1}{(-3)^n-1}\)(\(n\) は1以上の整数)の形で表されることがわかりました。

 ちなみに、本編では「\(-3\) の付近には無数のNG初期値が密集している」と述べました。
 これを数学的に言うとこうなります。

 NG初期値 \(a_1\) の極限は、 \begin{align} \lim_{n \to \infty}a_1 &= \lim_{n \to \infty}\dfrac{(-3)^{n+1}-1}{(-3)^n-1} \\ &= \lim_{n \to \infty}\dfrac{-3-\dfrac{1}{(-3)^n}}{1-\dfrac{1}{(-3)^n}} = \dfrac{-3-0}{1-0} = -3 \end{align}

 これは、簡単に言うと「\(\,n\) の値が極端に大きければ \(-3\) とほぼ同じ値になる」ということです。
 \(n\) が1億や1京ともなると、\(a_1=-3.0000000000\cdots\) とゼロが何個並ぶかわからないくらいに肉薄します。
 \(n\) が巨大な奇数だと \(a_1=-2.9999999999\cdots\) と \(9\) が大渋滞を起こしちゃう😅