1.ナンプレは解を1つしか持たないパズルである
雑誌やスマホアプリなどで世に出ているナンプレを解いていくと、すべてのマスが数字で埋まって解き終えることができますね。
これは「ナンプレの解はただ1つしかない」ということを意味しています。
しかし、実は、ナンプレのルールには「解は1つしか持たない」という文言がありません。
タテ・ヨコ・ブロックに関するルールはあるけれど、解の個数については明記されていないんですね。
でも、何百何千と解いてきた方々でも、複数解を持つナンプレを目にしたことはほとんどないと思います。
あったとしてもそれは出題者側のミスで、後にお詫びが掲載されたりする。
というのも、ナンプレは「解は必ずただ1つ」が原則であり、複数解を持つナンプレは良い作品とは認められないからなんです。
そうなると、その原則に則った解法が考え出されてもおかしくありません。
解はただ1つしかない。
じゃぁ、複数解が生じるような理屈はおかしいんじゃない?
こういうわけですね。
そういう観点から Unique Rectangle や Bivalue Universal Grave などの解法が生まれていきました。
実は、複数解を利用した解法は多く存在します。
そして、各解法の対象となる複数解パターンもいろいろ存在します。
そこで、次セクションではいろんな複数解パターンを紹介していきましょう。
複数解に関連して unavoidable set という概念もあるので、それも紹介します。
【追記】なぜ複数解を持つナンプレは良い作品とは認められないのか?
なぜ複数解を持つナンプレは良い作品とは認められないのか?
その理由を説明しましょう。
ま、手っ取り早く言うと「そんなナンプレは面白くないから」です。
図1-1 左側のナンプレを解くと、図1-1 右側のように75マスまで埋まります。
しかし、ここで困ったことが起こる。
どうしてもここから先へ進めない。
なぜかと言うと、空きマスの1つに数字4を入れても9を入れても完成できてしまうから。
どちらを入れてもOKなんですね。
しかし、それは「マスに入る数字を論理的には決定できない」ということも意味します。
つまり、完成目前というところで理詰めが頓挫してしまったわけです。
「最後まで理詰めで解ける」
ナンプレなどの数理系パズルにおいて、これは最も重要です。
各マスに入る数字を論理的に突き止め、その積み重ねで解き進めていき、すべてのマスが埋まって完成する。
理詰めでゴールできた達成感が楽しいわけで、これは数理系パズルの要と言えるものなんです。
しかし、複数解を持つナンプレはその楽しさを奪います。
図1-1 のように必ず論理の流れが途絶えてしまい、完成には至らないからです。
どんなに正しく解き進んでいても途中で断念を余儀なくされ、達成感は得られない。
これじゃぁ面白さが半減しちゃうんですね。
だから、ナンプレ制作者達は複数解のあるナンプレを作りません。
ちなみに、「最後まで理詰めで解ける」とはどういうことか?
少し具体的に言うとこういうことです。
「このマスはこの数字で確定する」
これが最後の1マスまで論理的に続く。
解いている途中のどの局面であっても、数字の確定する空きマスがどこかに必ずある。
そのマスを理詰めで見つけ、数字を入れる。
これが最後まで繰り返されて完成にたどり着く。
こういうことです。
そうやってできたナンプレには複数解はありません。
どのマスにもただ1つの数字が確定してるわけですもんね。
ナンプレは必ず完成でき、達成感が必ず味わえる。
これが数理系パズルの正しいあり方です。
制作者達は「最後まで理詰めで解ける」ことを必ず心掛けてナンプレを作っています。
2.複数解の起こるパターン
「複数解が起こらない!」ということを根拠にした解法がナンプレには数多く存在します。
ただ、その前に「複数解とは何ぞや?」というところから話をしなきゃいけません。
そこで、このセクションでは、複数解の起こってしまうパターンについて解説していきます。
2-1.最も簡単な複数解パターン
まず、最も簡単な複数解パターンを紹介します。
図2-1、黄色4マスが矩形状に並んでいますね。
この4マスは次の状況になっています。
- 黄色4マスは、タテ2列・ヨコ2列・ブロック2個にのみ属している。
- どの黄色マスも候補数字は2つだけ。しかも、すべて同じ。
黄色マスを含むヨコ列は2つあります(2行目と4行目)。
黄色マスを含むタテ列は2つあります(2列目と3列目)。
黄色マスを含むブロックは2つあります(左上隅とそのすぐ下)。
そして、黄色4マスはすべて数字1と2しか入れられません。
こういう特徴があるんですね。
ナンプレを解く上で、前図2-1 のような箇所があると不都合が生じます。
最後まで解き終えることができないんです。
一応、うまいこと解き進められれば、図2-2 のように 77マスまでなら数字で埋められるかもしれません。
ところが、これ以上マスが埋まらない。
どうしてもここから先へ進めない!
それもそのはずで、前図2-2 の状況からは完成図を2種類作ることができるんです。
図2-3 の通り。
黄色マスのどれか1つに数字1を入れても数字2を入れても完成できてしまう。
もちろん、両者の完成図は異なるから、解が複数あるわけなんです。
結局、図2-1 の状況が生まれてしまった時点で、そのナンプレは必ず複数解を持つ。
これはどうしても免れないんです。
「このマスはこの数字で確定する!」
これが最後の1マスまで続くから、ナンプレは完成まで解き進めることができます。
ところが、複数解パターンがあるとその流れは途絶えてしまう。
なぜなら、図2-2 のように数字の確定できる空きマスが1つもなくなってしまうから。
どうしてもゴールにはたどり着けないんです。
論理的にゴールにたどり着いてもらうために、ナンプレは必ず唯一解を持つように作られています。
そのようなナンプレを解いている時、複数解パターンが現れることは絶対にないんです。
前図2-3 に関連して、もうひとつ注意すべきことがあります。
- 解いている途中で 図2-4 左上のような数字の並びは絶対に現れない。
この黄色4マスの数字はヒント数字(問題図に最初からある数字)ではなく、解いている途中で書き込まれた数字です。
何もないところから1221の形は生まれないということですね。
なぜかというと、たとえこの状態から 前図2-3 左側のように完成したとしても、この4マスの1と2を交換して 図2-3 右側の形にもできてしまうからです。
1221の形がある時点で、もう複数解は免れないんですね。
だから、この1221型の並びは現れません。
ただし、図2-4 右下のように4つのうち最低1つがヒント数字(黒色)だったなら、1221型は普通に現れます。
「複数解はNG」という視点で見ると、図2-1 も 図2-4 も致命的な状況だと言えます。
だから、その状況を逆手に取った理屈が思い浮かび、それが解法へと発展していった。
現に、図2-1 からは解法 Unique Rectangle が生まれ、図2-4 からは解法 Avoidable Rectangle が生まれています。
ちなみに、図2-4 の形は両方とも unavoidable set と呼ばれます。
あまり深く覚える必要はありませんが、知りたい方々はセクション3をご覧ください。
2-2.他の複数解パターンもあるよ!
マス数が増えた複数解パターンも紹介しましょう。
例を2つ挙げて解説します。
まずは1つめ。
このような形は解法 BUG Lite に登場します。
図2-5 を見てみましょう。
4マスからちょっと増えました😊
マスがこぢんまりと並んでいますが、黄色全体を見ると次の特徴があります。
- どの黄色マスを見ても、候補数字は2つしかない。
- 黄色マスを持つどの列やブロックを見ても、黄色マス内部の候補数字はそれぞれ2回ずつしか現れない。
例えば、左端のタテ列には黄色マスが3つありますが、その候補数字1, 2, 4はそれぞれ2回ずつ現れています。
左上ブロックでは候補数字1〜4が2回ずつ現れていますね。
この場合も、うまく解き進められれば 図2-6 のように白マス全部を埋められるかもしれません。
しかし、やっぱりこれ以上マスが埋まらないんです。
どうしても先へ進めない😞
図2-6 からも完成図は2種類できあがります。
このナンプレも複数解を持つんですね。
2つめの例。
このような形は解法 Bivalue Universal Grave に登場します。
図2-7 です。
さらに多くなりました。
なんと、黄色マスは 20個以上!
これだけあっても、図2-5 と同じ特徴を持っているんです。
- どの黄色マスを見ても、候補数字は2つしかない。
- 黄色マスを含むどの列やブロックを見ても、黄色マス内部の候補数字はそれぞれ2回ずつしか現れない。
図2-7 からも完成図は2種類できあがります。
このナンプレも複数解を持つんですね。
2-3.複雑な複数解パターン
今までは、どのマスも候補数字が2個しかありませんでした。
もちろん、3個以上の場合でも複数解パターンは存在します。
ただ、それを活用する解法はほぼ無いので、紹介だけ。
例えば 図2-8 ですね。
この黄色10マスには候補数字1〜4が散らばっていますが、今までのようなハッキリとした特徴はありません。
図2-8 から白マスをすべて埋めたとしても、完成図は5種類できあがります。
やはり、このナンプレも複数解を持ってしまうんですね。
最後に、複数解NGを根拠とする解法についてちょいと真面目な話をひとつ。
複数解がNGだとはルールで規定されていません。
「必ず唯一解を持つ」というのは、作り手たちの持っている共通認識に過ぎないんですね。
だから、ルールにも書かれていない勝手な認識を解き手に要求するというのは、本当はおかしな行為です。
そういう意味で、Unique Rectangle など唯一解を拠り所とする解法は本筋であるとは言いづらいんですね。
作り手の立場からすると、こういう裏筋の解法を必須とするナンプレ問題は作るべきではありません。
しかし、解き手の立場で見ると話はガラッと変わります。
ナンプレを解く時に、皆さんはいちいちそんな裏事情を気にする必要はありません。
本筋だの裏筋だのは正直ど〜でもいい話。
楽しく解けりゃぁそれで良いのです😊
逆に、解き手だけでなく作り手の視点も味わえる。これもまたナンプレの面白いところですね。
裏事情ひとつでナンプレの世界をさらに知る。これもまたオツなものです。
更新履歴
- 2022. 2. 5.
- 新規公開。
- 2022.11.14.
- セクション1に「なぜ複数解を持つナンプレは良い作品とは認められないのか?」を追記。
- 2023. 3.31.
- ページ冒頭に難易度表記を追加。