【コラム】ナンプレはどこまで解きにくくできるのか?

 巷にあふれているナンプレは、ほとんどが初歩的な解き方で解けます。
 もちろん簡単に解ける問題もあれば、非常に手間のかかる問題もある。
 では、解きにくいナンプレの最高峰はどれほどの物なのか?
 それを考えてみよう、という話です。
 (難易度:★★)

1.初歩的解法だけで解けるのに……

 初級〜中級あたりのナンプレを解く時、皆さんは初歩的な解き方を繰り返し使っていると思います。
 ブロックに注目する解き方。
 タテ列やヨコ列に注目する解き方。
 1マスに注目する解き方。
 もぅ盤面のありとあらゆる箇所に目を配らせていることでしょう。

 難問でない限り、巷のナンプレは初歩的解法だけで解けるようにできています。
 しかし、どうにもこうにもマスが埋まらず、完成までかなり時間がかかったという経験もあることと思います。
 そこで、こ〜んな疑問を考えてみたい。

初歩的解法のみで解けるナンプレ、どこまで難しくできますか?

 いや、難しくと言うよりは「解きにくく」と言った方が正確かな?
 どこまでマスの埋まりにくいナンプレを作れるか?
 そういう疑問です。

図 1-1

 とりあえず、具体例を挙げて話をしましょう。
 図1-1 です。

 このナンプレ、初歩的な解き方だけで最後まで解けます。
 これをちょいと解いてみてください。
 最後まで解かずに最初の数手だけでかまいません。

 もしかしたら、「すっげぇ解きにくいw」という感想を持たれるかもしれない。
 「これ、ホントに解けるのか……?」という疑問すら湧きそうだ。

図 1-2

 その感想はすごくわかります。
 なぜなら、前図1-1 の盤面からは数字の判明するマスはたった1個しかないのだから。
 図1-2、左上にちょこんと1個。マスAだけ。

 そのため、このマスAの2が見つからない限り、問題図からは何ひとつペンが進みません。
 頭をボリボリ掻き、ペンをクルクル回し、貧乏ゆすりしながら何十分も盤面とニラメッコ。シンドい時間が過ぎてゆくばかり……。

 しかも、それだけでは終わらない。
 マスAを数字2で埋めた後、数字の判明するマスを探すと、今度はマスB(数字7)しか見つからないんです。
 マスBを埋めると、その次はマスC(数字9)だけ。
 その次はマスD(数字4)だけ。

最初から「たった1マス」が4連続で続く!

 厳しいニラメッコに4連勝しなきゃいけないんです。
 そりゃぁ解きにくいってモンですわ😅

 通常、初級ナンプレは数字の判明するマスが盤面のそこかしこにあります。
 だから易しくて解きやすい。
 しかし、序中盤なのに1〜2マスしか判明しないナンプレだと、グッと上級感が増してくる。

 「その上級感はここまで醸し出せますよ〜!」
 そんな話をしてみよう、というわけです。

2.Hidden Single と Naked Single

 ……と、その前に。
 そういえば、セクションの冒頭で「ブロック・タテ列ヨコ列・1マスに注目する解き方」と言いましたっけ。
 その言い方はちょっと曖昧なので、厳密な話をしましょう。

 ナンプレ界には、2つの初歩的解法が存在します。
 1つは Hidden Single、もう1つは Naked Single です。
 この2つをまとめて Singles と呼び、皆さんが普段ナンプレを解く時に使っている解法として知られています。

 ここでは、この2つの解法を軽く説明します。
 もし両者とも既にご存じでしたら、セクションに進んじゃってください。

図 2-1

 まずは Hidden Single。
 これは「この数字は1カ所にしか入らないよ〜!」という理屈で解き進める解法です。
 例えば 図2-1 のように。

  • 赤色ブロックでは、数字1はマスAにしか入らない。
  • 黄色ヨコ列では、数字2はマスBにしか入らない。

 マスの選択肢は1つしかない。
 こういうことですね。
 「ブロックに注目する解き方」「タテ列やヨコ列に注目する解き方」が Hidden Single に相当します。

 詳細は『レーザー発射〜!』というページで解説しています。

図 2-2

 次は Naked Single。
 これは「このマスに入る数字は1つしかないよ〜!」という理屈で解き進める解法です。
 例えば 図2-2 のように。

  • マスCには数字3しか入らない。

 数字の選択肢は1つしかない。
 こういうことですね。
 「1マスに注目する解き方」が Naked Single に相当します。

 詳細は『このマスはアナタだけよ〜』というページで解説しています。

 余談ですが、セクションの4マスA〜Dはすべて Naked Single で見つかります。
 もしかしたら、皆さんはマスAを見つけるだけでも相当苦労したかもしれません。
 人間がナンプレを解く場合は Hidden Single の方が圧倒的に使いやすく、Naked Single は非常に使いづらい。
 コンピュータはその逆で、Naked Single の方が速く処理できます。
 機械と人間では明確に違うというのも、また Singles の面白いところですね。

3.解きにくさの指標、ステップ数

 Singles の説明を終えたところで、では、本題に入りましょう。
 ナンプレはどこまで解きにくくできるのか?
 一応、解きにくさの指標めいたものはセクションで既にチラッと出ています。

 このことをもう少し掘り下げてみましょう。

 題材として、ナンプレフォーラム『The New Sudoku Players' Forum』のスレッド inferior puzzles thread をお借りします。
 そのスレッドでは、次の手順に従って「必要ステップ数」という要素を定めています。

  1. 解法 Singles で数字の判明するマスをすべて見つける(この時点ではまだそのマスに数字を入れない)。
  2. 見つかったすべてのマスに一挙に数字を入れる。
  3. 手順 1.〜2. をまとめて「1ステップ」とし、ナンプレが完成するまでステップを重ねていく。

 当ページでは、手順 1. で見つかったマスの個数を逐一数えます。
 その数値をここでは 判明マス数 と呼ぶことにして、解き終えるまでの判明マス数を順に列挙していきます。
 例として、セクションのナンプレに対しては結果は次の通り。

 先頭の「1, 1, 1, 1」はあの4マスA〜Dのことですね。

 この列挙された数字の個数が上述の「必要ステップ数」になる、ということはすぐに理解できるでしょう。
 この数列からわかる通り、個々の判明マス数が小さいと列は長くなります。
 判明マス数とステップ数の間には負の相関があるわけですね。

図 3-1

 まずは、対比のために低ステップ数のナンプレを見てみましょう。
 図3-1 はビギナーレベルのナンプレです。
 実は、たった3ステップで完成します。

  • 判明マス数は 23, 21, 9。

 最初に判明する23マスは青色です。
 問題図からはこんなにも突破口があるわけですね。
 また、23の次は21マスもある。ということは、青色マスのいくつかを埋めれば、21個の突破口のうち何個かが開かれる。
 さらにそこから次の突破口が開かれて……、とペンがどんどん進んでいく。
 さながら醤油パックの「こちら側のどこからでも切れます」のように、どこから解き始めても流れが気持ちよく連鎖していくことでしょう。

 ちなみに、このナンプレは「ブロックに注目する解き方」に限定しても簡単に解けます。
 その場合は5ステップで終わり。

  • 判明マス数は 16, 12, 11, 10, 4。

 その点で見ても、非常に解きやすいナンプレだと言えるでしょう。

 手持ちのスマホでナンプレアプリをいくつかダウンロードして、中級ナンプレをちょいと調べてみました。
 数十問を対象にステップ数を数えてみると、7ステップを中心として4〜13ステップに散らばっていた。
 少し多めに見積もって、「一般の中級は15ステップあたりが上限かな?」と大まかな基準ができました。
 雑な調査だけど、まぁ、基準は一応つかめたのでそれで良し😊

図 3-2

 その基準を踏まえて、次のナンプレを紹介しましょう。
 先述のスレッドから この投稿記事 です。

 その記事のナンプレは 図3-2。
 実は、28ステップもかかります。

  • 判明マス数は 2, 1, 2, 1, 1, 2, 2, 1, 1, 2, 2, 2, 1, 1, 2, 1, 3, 3, 1, 4, 4, 1, 2, 2, 5, 3, 5, 3。

 最初の突破口はたったの2マス。前図3-1 とは大違い!
 2マス以下が最初から16連続。しかも、序盤から Naked Single が必要という凶悪ぶり。
 マスを埋めても埋めても突破口がほとんど開かない。
 「こちら側のどこからでも切れません」どころか、切れ目のほとんどない醤油パックを相手にしているようなもんで、これはもぅパックよりも先に自分がキレてしまうかもしれません😅

 でも、逆に言えば、歯応えのあるナンプレだということです。
 腕に自信のある方々は是非チャレンジしてみると良いでしょう。

 当のスレッドの趣旨は、「Singles だけで解けるが高ステップ数のナンプレを挙げていく」というものでした。
 20ステップを最低ラインとして、手間暇のかかるナンプレを集めてた。
 当初は23ステップほどのナンプレがスレッドに並んでいたけれど、そこへいきなり28ステップが現れた!
 「発見した時はまるで信じられなかった」と、投稿者本人はコメントしています。

 そのスレッドには何十個ものナンプレが投稿され、16ページにもわたる大きなスレッドになりました(2023. 9.16. 現在)。
 これは、「解きにくいナンプレはたくさん作れる」という証だと言えるでしょう。
 そのナンプレを解いて面白いかどうかは別の話ですが、石のような歯応えを演出することは可能だとわかった。
 個人の趣味として、28ステップを超える作品を作ってみるのもオツな遊び方ですね。

4.究極はこれだ!

 スレッド「inferior puzzles thread」が立ち上がってから、さまざまなナンプレが投稿されました。
 途中からは副次的に低ステップ数のナンプレも投稿され、二重に話が盛り上がっていった。
 そんな中、スレッドの終わり頃に究極のナンプレがやってきた!

図 4-1

 同スレッドの この投稿記事 です。
 別のスレッド Single Hidden Single All Singles Puzzle から引用されていた物ですが、これが究極のステップ数を持っていた。

 そのナンプレとは、図4-1 です。
 一体どれほどの物か?

39ステップという、とんでもないシロモノだった!

  • 判明マス数は 3, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 2, 1, 1, 1, 1, 1, 2, 1, 2, 1, 1, 1, 1, 2, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 2, 2, 3, 3, 5, 4。

 もはや語るまでもありません😅
 「1」の個数がすべてを物語っとる😅
 この醤油パック、「絶対に切れません」とか書いてありそう😅

 いや〜、よくもまぁここまで煮詰めたものだ。
 ただただ感心するばかりです。
 これぞ究極の中級ナンプレと言えるかも。中級マスターと自負して止まない方々は一も二もなく挑戦するべきです。

 初歩的解法 Singles だけで、ここまで解きにくい問題ができあがるんですね。
 ナンプレ専門誌でもここまで強烈な問題は見ないだろうけれど、底意地の悪い作家(失礼!)が作ったりなんかすると、こういうオバケみたいな中級問題が生まれる可能性はあります。
 中級、侮るべからず!

 運悪くそういうオバケ問題に出くわした時は、じっくり腰を据えて解いてみるのも一興です。
 なぁに、何時間もかかったっていいんです!
 達成感は抜群です!

 ……いや、疲労感の方が抜群かもしれない😅

参考・参照

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