【解法】Trivalue Oddagon

 Trivalue Oddagon は、特定の4つのブロックに整列する12マスを使った解法です。
 12マスの並びが非常に綺麗で、候補数字の内訳がとんでもなくわかりやすい!
 しかも、その特徴が逆の意味で大きくはたらくんです。
 (難易度:★★★★★)

1.この12マス、埋められますか?

 解法 Trivalue Oddagon には、土台となる理論が存在します。
 まずは、それを紹介しましょう!

図 1-1

 図1-1 を見てみましょう。
 随分とまた黄色マス達が綺麗に並んでる!
 この12マスが Trivalue Oddagon の舞台です。

 ここで、この12マスについて説明しましょう。

  • 黄色12マスは3マスずつ4つのブロックに存在する。
  • ブロック内部では、黄色マスは対角線を描くように斜めに並んでいる。また、右上がり/右下がり どちらの対角線も奇数個ある。
  • 黄色マスの候補数字はすべて同じ3種類である。
  • 黄色マスの属する4つのブロックは2×2の矩形をなすように並んでいる。

 対角線の方向が 3:1 または 1:3 に分かれていることに注意してください。
 2:2 や 4:0 など偶数はNGです。

 いや〜、ホントすごく綺麗な形だ🥰
 なんだか45°傾けたハンマーのようにも見えてくる。
 クルッと回せば起動スイッチのマークに見えないこともない😅

 さて、ここで問題を1つ。
 図1-1 の黄色12マスを数字1〜3ですべて埋めてみてください。
 もちろん、ちゃんとナンプレのルールを満たすように数字を入れなければいけません。
 さぁ、うまくできるかな……??

図 1-2

 実は……これ、不可能なんです。
 黄色9マスをどう埋めたとしても、最後で困ってしまう。
 青色マスのどこかで必ず破綻するんです(図1-2)。
 悪戦苦闘した皆さん、ホントごめんなさい🥺

 結末はまさかの破綻だった。
 いや、もしかしたら数字の入れ方が悪かっただけなのかもしれない!
 本当に必ず破綻するのかどうか、実際に確認してみましょうか。

図 1-3

 黄色12マスのうち、4マスは矩形をなす配置をしています。
 図1-3 の緑色4マスです。

 まず、この4マスを数字1, 2, 3で埋めることを考えましょう。
 この場合、ある数字はどうしても2個必要になっちゃいますね。
 4マスあるのに数字は3種類しかないですもんね。

 ここでは、数字1が2個入ったとしましょう。
 その2個は、対角をなすブロックに配置されます。
 例えば 図1-3 のように。
 他の2マスには数字2か3が入りますが、その情報は不要なので、「?」とお茶を濁しておきます。

 また、数字1の斜め隣には2と3が入るので、ついでに入れちゃいましょう。
 これで2ブロックが完成!

図 1-4

 では、残りの2ブロックはどうか?
 さっき配置した2と3に応じて、一方のブロックを検証しましょう。
 ここでは、図1-4 の赤色2マスに注目してみます。
 このマスに入る数字は1〜3のどれでしょうか?

あっ。
どっちも1しか入れられないじゃん!

 これで、破綻が起こることが示されました😵
 この黄色12マスを数字1〜3だけで埋めることは不可能なんですね。

 12マスの条件があんなにも美しく整っているのだから、数字も美しく並びそうなもの。
 なのに、現実は悲劇が起こってしまった。
 泣ける🥺

 というわけで、この黄色12マスの状況は絶対に起きてはいけません。
 Trivalue Oddagon という解法は、それを逆手にとって話が展開されていきます。
 この悲劇の12マスが実際にはどう活用されるのか。
 それを解説していきましょう。

2.実際に使ってみよう!・その1

 では、解法 Trivalue Oddagon を解説していきましょう!
 実例を2つ交えて解説していきます。
 最もシンプルなパターンは当セクションで、少し複雑なパターンはセクションで解説します。

図 2-1

 ナンプレのフォーラム『The New Sudoku Players' Forum』では自作のナンプレを自由に投稿でき、みんなで解いて感想や議論に花を咲かせています。

 図2-1 は、Loki (SER 11.9) と題したスレッドで実際にフォーラムに投稿されたナンプレです。
 スレッド名の通り、このナンプレ問題には「Loki」という名前が付いています。

図 2-2

 前図2-1 から3マス埋まりました。
 ここで、黄色12マスを見てみましょう。

  • 黄色12マスの配置は前セクションと同じ形。
  • 11マスには候補数字3, 5, 7しかないが、マスAだけは候補数字1も持っている。

 マスAに現れた新しい候補数字「1」。
 これが非常に大きな存在です。

 セクションの話を思い出しましょう。
 今、図2-2 の12マスは風前の灯です。
 もし、マスAの候補数字1が消えてしまったら……?

そう。破綻が起こる。
「悲劇よ再び!」になってしまうのです。

 それだけは絶対に許してはならぬ!

図 2-3

 というわけで、前図2-2 からの結論はこうなります。

  • マスAに数字1が確定する。

 図2-3 の通りです。
 颯爽と現れた新しい候補数字「1」が何食わぬ顔でマスを独り占めしていきました😊

 この新しい候補数字には名前が付いています。
 guardian と呼びます。
 解法 Trivalue Oddagon は「破綻を避ける」が大事なキーワード。
 そのキーワードに沿って、guardian 達が大活躍していくんです。

 このセクションでは guardian が1個だけのパターンを解説しました。
 もちろん、複数個のバターンもあります。
 それについては、次セクションで解説しましょう。

マスが対角線上にない場合もある
図 2-4

 ナンプレ盤面において、太線を跨がない限りタテ列は自由に並べ替え可能です(例えば、4〜6列めの並べ替えは自由)。
 ヨコ列も同様の並べ替えが可能です。
 そのため、図2-2 のタテヨコ列を並べ替えて 図2-4 のようにマスが対角線からずれているというパターンもあります。

 このパターンだと対角線の 右上がり/右下がり を判断しにくいですが、「ブロック内部では黄色マスはどっちの対角線に平行に並んでいるのか?」を考えると判断できます。

3.実際に使ってみよう!・その2

 次は、少し複雑なパターンを解説しましょう。

図 3-1

 図3-1 はこういう状況です。

  • 黄色12マスの配置はいつもの形。
  • 黄色マスの候補数字は2, 6, 9のみ。ただし、2マスA, Bには他の候補数字もある。

 なんと、今度は guardian が2人も現れた!
 マスAの4、マスBの7です。
 この場合の結論はどうなるんでしょう?

図 3-2

 結論はこうなります。

  • 「マスAに数字4が入る」「マスBに数字7が入る」の少なくとも一方が成り立つ。

 解法 Trivalue Oddagon の本質は次の一言に集約されます。

guardian を全滅させてはならない。

 理由はもちろん、破綻を回避するため。
 だから、A=4 または B=7 の少なくとも一方が成り立たないといけないわけですね。

図 3-3

 前セクションのように数字が直接確定するわけではないですが、この結論からもう少し進めてみましょう。
 実は、次のように話が展開します。

  • マスCから候補数字7を除去できる。
    その後、マスDに数字3が確定する。

 A=4 の場合は、左中ブロックに注目すればマスCに数字4が入ることがわかる。つまり、Cに7は入れられません。
 B=7 の場合は、当然、Cに7を入れられません。
 どっちにしても、マスCに数字7は入らないことになる。

 あとは、青色2マスで2国同盟が発生し、そのおかげでマスDに数字3が確定するわけですね。
 あとは難しい手筋もなく大団円。
 めでたしめでたし😄

4.oddagon よ、何処にある?

 ここからは余談です。
 「Trivalue Oddagon」という名称について、ちょいとした話を。

 まず、trivalue も oddagon も聞き慣れない単語ですよね。
 意味は何でしょう?
 trivalue は tri+value、「3つの値」という意味です。
 ナンプレには「マスの中に候補数字が3個しかない」という状況はザラにある。その3個を trivalue と表現します。セクションで言うと候補数字2, 6, 9が trivalue ですね。
 oddagon は「奇数角形」という意味。三角形, 五角形, 七角形, ……ですね。
 Web検索しても極少数しかヒットしなかったから、たぶん造語かな?

図 4-1

 「3つの値」を表す単語があるのなら、もちろん「2つの値」を表す単語があってもおかしくはない。
 事実、『Bivalue Oddagon』という解法も存在します。

 その土台となる理論は 図4-1。
 同じ2種類の候補数字しかない奇数個のマスが繋がって、奇数角形をなしています。
 実は、この奇数角形、既に破綻が起きている悲しい図形です。

 だから、解法 Bivalue Oddagon は、このマス達に guardian が加わった状況で使われます。
 論理展開は Trivalue Oddagon と同じ。「guardian を全滅させてはならない」という理屈でシナリオが進みます。
 ナンプレフォーラム『The New Sudoku Players' Forum』の 【TECHNIQUE SHARE】Odd Bivalue Loop(bivalue oddagon) というスレッドで一例が示されているので、詳細はそちらをご覧ください。

 図4-1 を見れば、まさに「bivalue oddagon」という名称がピッタリですよね。
 では、翻って trivalue oddagon はどうだろうか?
 あらためてセクションの図に戻ってみましょう。

図 4-2

 その盤面をもう一度(図4-2)。
 この配置、どう目を凝らしてもこの疑問が湧いてくる。

奇数角形はどこだ……?

 当の盤面に存在しているのはハンマーや起動スイッチみたいな配置であり、奇数角形どころか多角形の面影すらない。
 そもそもマスは12個。まったく奇数ではない。
 オダゴンのオの字もありゃしない😅
 一体、どこら辺が「oddagon」なんだろうか?

 当ページに何度も出てきている『The New Sudoku Players' Forum』。
 Trivalue Oddagon に関する発言はそのサイトにはありました。

図 4-3

 発端となったのは「The hardest sudokus (new thread)」というスレッドです。
 その55ページ目にある 投稿記事 から話は始まった。
 図4-3 のような黄色12マスを見つけ、「矛盾を示すのにどんな種類の魔法が必要なんだ😄」と投稿者は驚いたそう。

 その発言に対する最初のレスが「一種の trivalue oddagon に似てるかな?」でした。
 続けて「2マスAの両方に数字を入れると、3マスBのどこかに第三の数字が必要になる。でもその数字をBのどこに入れてもうまくいかないですね」という趣旨の説明もしています。
 この魔法のような配置に他の投稿者達も魅了されたのか、さまざまな証明や独自の考察を持ち寄って議論に花が咲きました。

 図4-3 の12マスをよく見ると、明らかに候補数字は3種類しかない。
 しかも、A, Bの5マスで五角形ができる。
 「あぁこれは trivalue oddagon っぽいね😃」と言われれば、たしかに首を縦に振れるというものです。

 時は過ぎ、同スレッドの76ページ目。
 ページ途中、この投稿記事 から名称「trivalue oddagon」の是非について議論が勃発した。
 名が体を表していないと投稿者本人は否定的に主張を述べ、いろんな考察を繰り出す肯定派の方々と熱い議論を交わしていました。

図 4-4

 肯定派の意見の一例を紹介しましょう。
 候補数字は全3種類なのだから、とりあえず1つめの数字でマスを埋めてみて trivalue oddagon の性質を深く探ってみる。そういうアプローチで調査するのは至って自然ですね。
 というわけで、実際に埋めてみる。
 で、残りの8マスをよ〜く見ると……(図4-4)、

あれ?
なんか、さっきの悲しい図ができてない?

 7マスで七角形ができちゃった😅
 図4-1 で説明した bivalue oddagon の悲劇再来、というわけです。
 このことから、「trivalue oddagon は bivalue oddagon を内包している」と言えるんですね。

 「これはもぅ trivalue oddagon という名前がピッタリっしょ😃」と言われれば、もぅ首を縦に振らざるを得ないというものです。

 否定派の投稿者本人は後に「tridagon」という仮称を発案し、The tridagon rule というスレッドを立ち上げました。
 そのスレッドではたくさんの実例が分析され、三重同心円のような抽象的な証明が提示され、さらには Tridagon-Forcing-Whip や Anti-Tridagon Pattern など新たな概念も導入され、だいぶ議論が発展していきました。
 Trivalue Oddagon は2021年から話題になり始め、今でもフォーラム内で議論の俎上に載っています。
 今後もますます議論が深まっていくことでしょう。

 最後に、小ネタをひとつ。
 そういえば、セクションの配置(図4-2 の配置)はハンマーにも見えてくると言いましたっけ。
 実は、その配置には Thor's Hammer という特別な名前がついています。
 ミョルニルとも呼ばれる、あのトールハンマーです。

 トールハンマーとは、北欧神話・雷神トールの持つ鎚のこと。
 柄が短いという欠点はあるものの、どれだけ打ち付けても壊れることはなく、投げれば敵に必ず当たって再び自分の手元に戻ってくる。
 古ノルド語の「粉砕するもの」という意味通り、絶大な威力を持つ神器です。
 巨大蛇・ヨルムンガンドとの死闘でも有名ですね。

 実は、セクションの実例は Thor's Hammer の形をしています。
 図2-1 を見た時、候補数字357の11マスに気付いた方々は多いかもしれませんね。
 Trivalue Oddagon という解法は、12マスに対する縛りがあまりにもキツい。だから、盤面の大半が数字で埋まっていないとロクに使えません。
 しかし、逆に言えば、空きマスでハンマーの輪郭ができあがっていて見つけやすいとも言える。まるでギャグアニメのようにハンマーが盤面に激突して、ハンマーの形そっくりにくり抜かれている感じ。
 見た目のインパクトが実に強烈! 一度は使ってみたくなる解法ですね😃

 ただ、残念ながら、Thor's Hammer は超マニアックな解法です。
 超難問でないと使う機会は訪れません。
 もしヨルムンガンドのような難問に挑み、盤面にハンマー跡が見えたなら、是非 Thor's Hammer の一撃を食らわせてやりましょう!
 盤面の上で小さなラグナロク。これもまた一興です。

参考・参照

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